TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[2-11]

　と、俺のすぐ横にあるドアが、ばん、と開いた。…そんなに強くはねえんだが勢いはあるな。開けたのはさっきまでどっかに行っていたジーナの相棒、ハービーだ。うん？　後ろに二人ほどいるな。
「…隊長と、班長が、来た」
　ジーナがさっと立ち上がって、ぴりっとした顔で敬礼なんぞしてやがる。普段はあんなだが、さすが警備隊ってとこか。

「マイノス王国クレータ分署迷宮警備隊隊長エンリコ・フェデリーニです。こちらは内部担当第2班班長のモーリス・ハガット」
　隊長、と言うからにはいかめしいおっさんを想像していたんだが（当たり前だが会ったことなんかねえ）そんなにおっさんでもねえのかな。…ちょっと年齢が読めねえが…どこか軍人っぽい印象を受けるな。そこまでガタイがいいわけでもねえのに線が太いと言うかどっしりとしている、と言うか。でも切れ者って感じじゃあなくて体力で押してくるような…そんな感じもする。でもそこまで筋肉バカってわけでもねえようだな。警備隊員によくある筋肉だけってのとはちょっと違っていそうだ。こういうのはどう説明したらいいか分からんが、握手の仕方も警備隊よりもなんだか軍っぽい。警備隊の連中とはどこかが違うんだ。
　警備隊はクレータの警察組織から選抜されてなるもんらしいが、警察そのものだって軍とは無関係じゃねえもんな。だからこういうのがいても当然なのかも知れねえ。
「よろしく」
　班長というのは…これは明らかに警備隊員出身のたたき上げってなとこかね。よく会う警備隊員と同じ匂いがしやがる。いいも悪いも全部含めて、な。…あー、あのハービーてのは特別な。あんなのは俺だって初めて見たんだ。

「俺はサポーターのモナーク。こっちは…」
「ルートセラーのマナメ・カギョリですな？」
　知ってるのか…？　当人はなんだかよく分からん、てな感じできょとん、としているが。こういう時は礼儀として立つもんなんだがそういうのとは全く縁がないやつだからな。まあ、仕方ない。ジーナや班長さん辺りがなんだかきょろきょろしているが、そこまではこっちも知らんよ。
　するとエンリコって隊長がなんとも困ったような表情であいつに近づいていくんだ。
「…マナメ…カギョリさんですな…？」
「うん…」
　火吹き竜を腕の中に抱え込んだまま、じいいいい…と隊長の顔を見上げている。

「…どっかで…会ったっけ…？」
「やれやれ」
　困ったような顔から照れたような、でもやっぱり困ったような顔になる。なんなんだ？
「カギョリ准将はお元気ですかな？　マナメさん」
「………？」
　今度は目を細めて…おいおい知り合いじゃないのか？　なんだかそんな雰囲気だぞ？
「…誰だっけ？　あんた？」
　はあ？　こいつ人の顔覚えるのは得意じゃなかったのか？　隊長さんはこいつを知ってるが、こいつは覚えてないってか？　そんなんどうすりゃいいんだ？
「仕方ありませんな」
　今度はかすかな笑みを浮かべたまま…あいつの右隣へ。何しようってんだ…？

「おお…」
　…正直、何が起きたか俺には分からねえ。隊長さんが左手をあいつの右腕（火吹き竜を抱えているからな、ちょっと曲げて机の上だ）に伸ばした…と、そういうところまでは分かる。でもな、なんで…その直後に隊長さんが左肩から床へ落ちるような、なんだ、引き倒されるような格好になっちまってるんだ？
「座捕りの3『引き落とし』…こんな綺麗に決まるなんて…」
「ううむ、まさかあの隊長が…」
　ジーナと班長さんは何やらうなったり感動したりしちまってるみてえだが。
「…何の話だ？　ザトリって何だ？　ヒキオトシ？」
「座捕りってのは座ったまま相手の関節極めたり投げたりする技の名前よ。3、ってのはこっちが椅子に座ってる時の用法の総称で『引き落とし』が技の名前なの。でも普通は練習の時にやったりするくらいだから、実戦でこんなに綺麗に決まることはないわ」
　視線はあっちの二人から外さず、ジーナが説明してくれるんだが…。
「ああ、見事だ。ここまで見事な運用法は見たことがない。しかもあの隊長相手に」
　班長さんまで。…それでも何のことかさっぱり分からねえ。
「ドールマータでも第二師団の曹長だったのに、それを相手に…ここまで」
　…なんだ、やっぱり本当に軍の人間だったのか…？　あの隊長？

「…あー…」
　あいつは引き倒した隊長さんを引っ張り上げたりしている。もっとも、隊長さんにもケガとかそういうのはないようだし、何より床に倒れる寸前で立て直したらしい。…こっちもすげえってことか。
「エンさんだ！　なんだあ…早く言ってよ？」
「名前なら先に言っただろうが。…やっと思い出したかこの跳ねっかえり娘が！」
　むんずと頭を掴んでぐりぐり。知り合い…って言うよりなんだか親戚のおじさんとか近所の兄ちゃんとかそんな印象だな。言葉遣いも違っちまってるし。
「やだ、痛いってば…相変わらずだなあ、エンさん」
「何を言ってんだ、ええ？　しかし…座捕りまで出るとは鍛錬は怠ってないみたいだな、感心感心」