TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[2-13]

「いいでしょう。そのこともお知らせしますよ。…ハガット君、班長室を使ってもいいかな？」
「は。どうぞこちらへ」
　ってね、なんでかモナークとエンさんともう一人の人はどっか行っちった。はあ。

　あ、エンさんってのはね、父さんの知り合いだか友達だかで…あれ？　違ったかな「でし」とかそういうのだったけ？　なんかそんな感じで色々教わりに来てたんだよ。もちろんエギアの僕の家じゃなくてね。ど、どー、どどど、なんかそんなむつかしい名前の看板が立ってる建物の中でね。
　僕はほとんど毎日父さんにお弁当を届けに行ってたんだ。そのついでにどー何とかの建物の中にある道場で練習してたんだ。すんごく広い道場なんだよ？　僕の家なんかいくつも入っちゃう…って、そこまではないか。でもあんな広い部屋って僕は今まで見たことがない。…あー迷宮来ちったからね、ここで見たりしたのはナシってことで。それとクレータのこーみんかんとか。ああいう広いとこも見たことはあるんだけど、あそこの道場はね…やっぱり広いや。

　エンさんとか他の人たちもよく来てたんだ。みんな面白い人たちなんだよ？　ただ、なんだかみんな忙しそうなんだよね。毎日来れる人って受付けやってるお姉さんくらいで、他にはまずいないし。月に一回だけとかそんなおじさんもいたし。そういうところが残念だったなあ…もっとみんなといっぱい色々やってみたかったのに。
　そう言う僕もルートセラーになってからはあんまし行かなくなっちゃって、父さんがたまに家に帰ってくる時にちょろっと話聞いたくらいになっちゃってたんだけどね。今日は会えて良かったなあ…他のおじさんやお姉さんたちも迷宮に潜ってるのかな？　だったら楽しそうだね、楽しみだね。会えるかな？

「ねえ、エンさんの他にも道場の人って、迷宮に潜ってるの？」
「………」
　おりょ。なんかむつかしい顔してるよ、お姉さん。突っ立ったまま、あごに指先を当てるように…僕の方見てないね、どこを見てるんだろ？
「どしたの？」
「…ああ。ああーごめんなさい。何？」
「エンさんの他にも潜ってるのかなー、って。道場の人」
「道場？　エギアの軍本部の、ドールマータ駐屯所の中にあるあそこ？　…そうねえ…いないこともないんじゃないかしら？　軍関係とか警備隊関係とか、そういう人が潜ってることは多いんだし」
　へー…じゃ、会えるのかな、他の人にも。
「それより。ね、ちょっとこれを見て。モナークって、何か言ってなかった？　このこと？」

　お姉さんが指したのは壁に貼ってある紙切れ。
　座ってると見えないから前まで歩いたんだけど。もちろんポコポコも一緒にね。やっぱり僕の頭の上がお気に入りなんだよ？　ポコポコってば。

　んーっとね。
「めいきゅーほごか、かーん、かんかん、り、りーん、にたたたた…」
「…読めないの？」
「むつかしい言葉が多いや」
「じゃあ、代わりに読んであげる」
『迷宮保護管理に携わるオールドマン家の新当主がティム氏に内定した。ティム・オールドマン氏はノスクルバーグのマキーナ学術専門学校で実践考古学の権威ホイットニー・アルバティア氏について学び、いくつかの重要な発見に関わったことでも知られている。クレータに戻ったティム氏は早速迷宮内の大がかりな調査に着手すると見られ…』

　…？？？　何のこと？

「よく分からないかしら？」
「うん…あ、もしかしてこの人がそのてぃーむさん？」
　紙切れ…しんぶんって言うんだね。エギアにもそういうのがあるけど、家に配達してくれるものだから、壁に貼ったりするのは違うかと思ってたよ。でも「新報」てのは新聞のことだよね。
　この新聞に似顔絵みたいのが載ってるんだ。誰かが描いたんだろうね、とっても上手だなあ。
「ティム・オールドマンさん、ね。そう。でも…ちょっとあたしの趣味じゃないわね。ひょろひょろしてて。オトコってのはもっとこう…大きくないとね、色んなところが」
「そなの？」
「そ・う・い・う・も・のなの。あなたのお父さんも大きいでしょ？」
「まあね。僕もあんなにでっかくなれるのかなあ…まだまだ背も低いよねえ…僕」
「そのうち大きくなるわよ。あの人の子供なんだし。ね？」

「ね…このてぃーむさんってさ、黒が好きなのかな」
　似顔絵は体の上半分だけなんだけど、着てる服もかぶってる帽子も真っ黒なんだよね。
「さあ…？　新聞だからそういう風になっちゃうんじゃないの？」