TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[2-16]

　あ。戻って来た戻って来た。一体何を話していたのかしら…？　気になるわね。

　でもまだちょっと難しい顔してるのね…元々あんな感じだったんだけど、ね。
「モナーク、おかえり～」
「おう」
　あらら。このコの前だとそういう表情は一応引っ込めちゃうのね。いつもとそれほど変わらない…ってのも何かヘンかしらね。いつものようなぶっきらぼうな顔してるけど、やっぱり何か抱え込んでるみたいな、そんな感じが出ちゃってるのよね。だからいつもとはちょっと違うわね。
「…なんか疲れたな、少し休んでから出るとしようぜ…ってどうした？」
「ね、ポコポコのことは？」
「それなんだが、しばらくはお前と一緒にいてもいいってよ。ただし、迷宮からの持ち出しはできねえけどな」
「うん！　それでもいい！　僕、ポコポコと一緒にいられるんだね？」
　あー…そういうことね。そりゃ、このコじゃなくても気になるわよね、あれだけ可愛がってるんだし。そういうとこまで気が回るようになった、ってのもかなり大きいんじゃない？　モナークにしちゃ上出来だわね。

　モナークの後からハービーも入って来たわ。どこへ行っていたのかしら…？
　あのコのところへすすすすって寄ってきて…。
「少し、時間ができたから、話してもいい、って…」
「……？」
　…あのねえ、それじゃ何がなんだか分からないでしょ？　なんでこの人が話しかけてくるんだ、ってな顔してるわよ？
　仕方ないわね。
「隊長よ、た・い・ちょ・う。あなた、知り合いなんでしょ？」
「たいちょう？　ああ、エンさんのこと？　うん、僕知ってるよ？」
「本当はお忙しいのよ、隊長も。でも少し時間に余裕ができたからあなたとお話してもいいって」
　ようやく飲み込めたみたいね。ぱあっと明るい顔になっちゃって、まあ。
「え？　いいの？　僕もお話したいなあ、って思ってたんだけどエンさんなんかむつかしい顔してたから…ほんとにいいの？」
「ええ。でもあまり長くならないようにね。…ハービー？」
「分かった。…さ、こっち…」
　って、あんまりあんたがゆっくり歩くもんだからこのコ、追い越しちゃって先に行ってるわよ？　まるであちこち動き回る子犬とゆっくりと歩く飼い主（モナークだとまた違ってきそうだけど、ハービーだから…お年寄り？）みたいになってるじゃない。なんだかおっかしいわね。…それでも二人とも詰め所から出て行っちゃったの。

「お茶でも飲む？」
「ああ、わりい…頼むわ」
　モナークは詰め所の椅子…あのコが座ってたのとは向かい側にある方ね、そこへため息と一緒に腰を下ろしたの。隊長のとこで色々話してたみたいだから、やっぱり疲れたのかしら…？　そういうの似合わないってわけじゃないけど慣れてないでしょうしね。それにサポーターって基本、警備隊苦手なものだしね。
　あたしはクレータ出身じゃないけど非番の時はクレータの町をあちこちぶらついているの。だからアリサやモナークとも知り合いになったんだけど、面識のないサポーターと会う時は緊張するわよ。警備隊員だ、って言わない方がいい時もあるの。ケンカになったことも何度かあったしね。こっちだってそういう面倒は起こしたくないのだけど…本当は。
「はい。どうぞ」
「すまんな」
　さっきまであのコが座ってた椅子にあたしも腰を下ろして…もちろんあたしの分のお茶もあるのよ？　そんなにいいお茶じゃないけどね。でも迷宮じゃ、こういう生活に直接繋がってないモノって結構いい値段するのよ。それでもやっぱり取調べの時にこういうのがないとね…殺風景になっちゃって話せるものも話せなくなっちゃう、って思わない？

「…どんな話してたの？」
「ん？　まあな、大したことじゃねえ…ってこともねえか」
「あのコと火吹き竜のことでしょ？」
「そりゃあ、そうなんだがな」
　ゆっくりと味わうようにお茶を口に含んで、やっぱりゆっくりと飲み込んで。
「警備隊って言っても色々あるもんなんだなあ…」
　ふう、とため息ついて。足を大きく伸ばして背中からずずずず、と椅子からずり落ちていくような格好。頭の位置が大分下がってきちゃってるわ。あんまりおぎょうぎ良くないわね。
「大変なんだな、やっぱり。命令とか指示とか」
「上からの命令は絶対なのよ？」
「全部が全部ってわけじゃねえだろ？」
「そりゃそうよ。あたしだって人間なんだから」
「人間、ねえ…」
　とん、と軽く音を立ててカップを置く。あらら、今度は上向いちゃった。ちょっと様子がヘンよね…何かあったのかしら…？
「そういうのの方が楽ってもんだよな…まったく」