TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[2-17]

　火吹き竜についちゃ、特に今すぐ引き渡せ、とかそんなんもなかったんだ。それだったら何のために探してくれって依頼があったんだ…とは思うさ。でも隊長さんもそういうとこまでは聞かされてないって話でな。深くは聞けなかった。だからしばらくはあいつが持っていても問題はねえってことなんだ、て説明もあの後あったんだ。
　その辺がなあ…火吹き竜にしたってあいつと一緒にいりゃ悪さもしねえだろうし。もし何か手違いでもあったらいけませんからこれを差し上げましょう…と隊長さん直筆の「所持許可証」と手紙までもらっちまった。生粋ってえと…なんか違うかも知れんが、元々警備隊じゃなくて軍の人間だからこういう心遣いみたいなもんまでできるのかね。それとも上の人が関係してるからこういうことまでやるのかね。

「お疲れ？」
「んにゃ。そこまでは…な」
　よいせっと。
　茶をもう一口。
「…どうすっかなー…これから」
「あのコの依頼があるんでしょ？　それこなしたらいいじゃない」
　そう簡単に言われてもなー…。
「どうにも、な。二重依頼になってるっぽいんだよ、実際のとこは。もちろんあいつはそんなこと知ってるはずねえがな」
「…二重依頼って…同時に二つの依頼を受けちゃったってこと？　タブーなんじゃないの？」
「場合によりけり、だ。四重依頼受けてこなしたサポーターてのも過去にはいたそうだからよ。まあ、故意にじゃねえから活動停止やら何やらにはならねえはずだ。こんなのもあるしな」
　隊長さんからもらったあの所持許可証と、一緒にもらった手紙を出してみる。この依頼に関しては警備隊隊長の名においてよろしく取り計らって頂きたい…って内容だがこんなの持ってるサポーターはまずいねえからな。警備隊と何か繋がりがあるって思われるんだろうな。実際、読んだジーナは目を丸くして驚いてやがる。
「こんなの見たことない…まあ…まあ…？　じゃあ、もう一つの依頼ってエンリコ隊長からなの？」
「正確には違うみてえだが、結果としちゃそうなるな」

「実はあなた方に一つ、依頼をしたいのです。もちろん料金は払います」
　あの後こう切り出されたんだ。
「しかし…俺はすでにあい…マナメ・カギョリの依頼を受けてます。二重依頼というのはサポーターにとって不義理なことになるんで、受けたくないんですよ。見つかったら何らかの罰を受けることになってますし」
　カネ欲しさに二つ三つ同時に受けるサポーター、てのが時々出てくるんだ。モグリじゃねえ、正規の奴でもやるやつはいるんだぜ？　でもそんなこと繰り返されたら他のサポーターにも影響が出るし、何より依頼人に対して不義理だ。だから見つかり次第かなりの額の罰金とか一定期間活動停止、最悪メダル没収にまでなっちまう。
「それは知っていますよ。このことに関しては私の名前で一筆添えておきましょう。それに、マナメさんが受けた依頼とも少なからず関係してきます。それに…この件なら二重依頼にはならない、と言ってもいいかも知れませんよ」

「…どういうことなのよ？」
「あいつが受けたのは『火吹き竜を探してくれ』って依頼なんだ。だからその依頼はもう完了したってことになる」
　モノは言い様ってやつだな。
「でもどういうつもりで依頼したのかしら？　だって迷宮内のものは持ち出せないじゃない。火吹き竜が見つかっても渡すことができないってことじゃない？」
「大丈夫だ。依頼人も迷宮に潜ってるんだ。だからあの女に今度会った時に渡せばいい。一番重要な『探す』が終わってる時点でこの依頼は完了だ、と言えるんじゃないか、てな」
　すると、ジーナはちょっと首をかしげて見せる。…これが本当はオトコだと思うとなんか気色わりいなあ、おい。
「あの女？　女の人なの？　あのコに依頼したのって？」
「ああ。アデレードって女サポーターだ」

「アデレード…？」
「3の店のオヤジ知ってるか？　ヘンな話聞かされちまってよ…実はアデレードってサポーターは幽霊なんだ、ってな。ばかばかしい」
「…アデレード」
「どうした…？」
　何度も何度も左右に首をかしげて…何だ？
「どっかで聞いたのよね、その名前」
「ヨタ話じゃねえの？　あのオヤジが知ってたくらいだ、あんたが知ってても不思議はねえよ」
　そこへハービーが戻って来た。あいつが一緒じゃないところを見ると…まだ話してるんだろうな。

「あ。ハービー、ねえ、ハービー？　アデレードって女サポーターの話、たしか…あなたがしてくれたんだったかしら？」
　その名を聞いたハービーは…
「ア、ア、アデ、アデレード…」
　がくがくがくがく震えだしちまった。膝までついて、テーブルになんとかつかまっている…おいおい？　なんか変な病気とかじゃねえだろうな？　迷宮内で急病ってのは結構やっかいなんだぜ？
「それは…その名は…簡単に口にしちゃいけない、んだ…」