TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[2-20]

「んふ。んふふふふ、んふ」
「なんだ気持ちわりいな」
「だってさ～またポコポコと一緒に迷宮だよ？　嬉しくないわけないじゃん」
「…お気楽なやつだな、お前」
　んふふ。べつにいいもん、おきらくでも何でも。ポコポコと一緒なんだから。

　5階層目ってね、町があるくらいだから人も多いのかなって思ってたんだけどそうでもないんだ、実は。そりゃ町の近くは結構人、いたんだけどね。町からちょっち離れただけでほとんど、いや…全然？　いなくなっちゃった。各階層に町があるわけじゃないし、あってもそれぞれの階層に一つだけなんだってモナーク言ってた。だから人が集まってもいち、いちじ…いっちじてっきなものだからすぐにあっちこっちへ行っちゃうんだって。
「まだ町に近いからって気を抜くなよ」
「分かってるよ、そんなこと」
「…あちらさんは町に近くてもあんまり関係ねえみたいだけどな」
「うん。カウント…なんかちっこいね、あれ」
「ヤミギツネだ」
　げ。あん時の…。
「ありゃまだ子供だな。あれだけでかいのはなかなか珍しいんだぜ…どいてな。とりあえず追い払う」

　ぽん。

　あの細い筒からモナークが何かうち出すと、きゃんきゃん鳴きながら回れ右して行っちゃった。こういうとこ見るとキツネじゃなくてイヌなのかな。エギアだとほっそい路地なんかに入っちゃうとノラ犬に会ったりすることがあるんだ。ほとんどはこっちの姿見るとびっくりしてどっか行っちゃうんだけど、時々あんな鳴き声出すんだよね。…あれ？　キツネってさ、どんな鳴き声なんだったっけ？　僕聞いたことないから分かんないや。やっぱりイヌっぽいのかな？

　それからはね、特に…なし。何も出てこなかったし誰とも会わなかったんだ。ポコポコも静かなもんでね、僕の頭の上でぐっすりとお休みちゅう。
　でもモナークはやっぱりしっかりとね、地図を確認しながら進んでるんだ。僕だって杖でコンコンやりながら進んでたんだよ？　まあ、でも…なんか退屈だなあ、とかこっそり思ってるとモナークが立ち止まったんだ。
「C22-5-3。…よし。6階層目に下りるぞ」
「うん」
　おお…ついに6階層目だよ。なんか…ついにここまで来たってやつですか？　ふへへへ。

　心の中で小さく『よっしゃー』って言いながら6階層目到着。…うーん…あんまり変わらないね、5階層目とも。
「当たり前だろ。階層ごとにいちいち変わってったら疲れるわ」
　ふうん。もぐるたびに壁の色とか匂いとか変わっていったら楽しそうだな、とか僕は思うんだけど…ポコポコ？　どしたの？
「ポポ…ポポポ…」
　僕の頭の上にいるのは変わらないんだけどね、なんで…こんな声あげてんのかな？　怖がってるわけじゃないし、怒ってるわけじゃないし…喜んでるわけじゃないし。なんかびっくりしてるような気がする…何だろ。
「何かいるのか？」
　コチューゴケの入った筒を、あっちこっちかざしてるモナーク。光があっち行ったりこっち行ったり。やっぱり気になってるみたいだけど…。
「…わかんない」
　何もね、感じないんだ。何も。フツーに迷宮の中ってやつですか？　誰かいれば何だろ、誰かいる！　って感じが伝わってくるし何かいれば、何かいる！　って感じが伝わってくるもんなんだけど。それも何もなし。だから誰も何もいないってことになると思うんだけど…。

　え？　誰かいるとか何かいるとか、どんな風に感じるんだって？　せつめいして欲しい？　…どーしても？

　うえ。それがね…むつかしいんだ。うん。何て言ったらいいのか、僕にはよく分かんない。分かんないけど…肌にびびっと来るとかなんか聞こえると言うか。アタマで何か感じるような気もするし。でもね、別にそんなんが見えるわけでも何か匂ったりするわけじゃないんだよ。

　ただ、そこに「何か」あるから、あれ？　なんかヘンだな…なんか違うような…って思っちゃうとか…そんなもんかな？　ごめん、やっぱよく分かんないよね、これじゃ。