TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[2-25]

　あー、びっくりした。モナークってばいきなり変な方向へ歩き出すんだもん。僕とはなわで繋がってるからさ、モナークが引っ張っちゃうと僕までふらふら～って引っ張られちゃうんだ。困っちゃうよ、まったく。

　でもポコポコは一体どうしたんだろ？
　いつものように僕の頭の上だったんだ。いくら暗くてもそんなことくらいは分かるよ。でもモナークが曲がり始める、ちょっと前だね、あれは。いきなりばたばたって暴れ始めちゃってさ。小さな手で僕を頭をたたいてる、って言うか…それとも体ごとばったんばったん跳ねてるって言うか、なんかそんな感じ。
　今までそんなことなかったのにね。
　さっきちょっと火を吹いてもらったけどさ。その後はするするっと僕の腕をつたって…僕の頭の上へ。うん、真っ暗だからそういうとこまで見えたわけじゃないけどそれがいつものポコポコだからね。多分そんな感じで頭の上へ行ったんだろうなー、てなことは分かったんだ。

　ちょっと、右手で頭の上を触ってみよ…あ、ポコポコ、いるよ、すべすべした手触りがあるから。…あ、僕の手をちょっと握ってきた。時々あるんだ、こういうの。多分これはね、ポコポコのちっちゃい手、あれで僕の手とか指とかを、ぎゅっと握ってきてるんだ。ポコポコそのものがとってもちっちゃいからね、手もとってもとってもちっちゃいんだ。
　もしかしたらだけど。ポコポコってこんなまっくらの中でもきちんと見えてたりするのかな？　こういう風に握ってきたりって、見えないとできないんじゃないのかな…いや、そうでもないのかな、どうなんだろうね。

　ところでさ。だーくぞーんってさ、ちょっと退屈してきちゃうね。
　変な動物なんかもほとんど出ないんだってさ。こんな風にまっくらだから集まって来ないのか何なのか知らないけどさ。フツーに歩くだけなんだ。杖で床コンコンも今は僕、やらなくていいし。ただただ腰のなわつかんで前に歩くだけ、しかもなあんにも見えないとこをさ、ほんと歩くだけってさ、なんだかとってもたいくつでさ…。

「…………」

「？　モナーク？　何？」
「ん、どうした？」
　あり？　違うのかな…？
「なんか言った？」
「いや…別に？」
　気のせい…なのかな？

　ぴた…ぴたり。
　ポコポコだ。なんか気になることがあると、僕の頭の上から額あたりまで体を伸ばしてくるんだ。ちっちゃなちっちゃな手を僕の頭の端っこや額に、ぴた、と当ててね。これがだーくぞーんの中じゃなかったら今、僕の目の前にはびろーんってポコポコの細長いお腹があるはずなんだけど、こんなとこじゃそんなんは見えないね。
　どしたのかな。なんか気になる…。
　今度は左手を伸ばしてみよう…がしっ、と、かなり強い力でポコポコが左手の親指を握ってくる。痛いわけないけどかなり…強い。あれあれ？　えっと、ええと…左手にぐるぐるっと巻きついてきちゃった。頭の上から左腕に移って来ちゃったんだ。今、肩くらいかな…なんだろ、どうしたんだろ、多分僕の顔のすぐ横にポコポコの顔もあると思うんだけど。

　こういうことも時々あるんだ。いつもいつも僕の頭の上でじっとしてるわけじゃないからね。肩の上に乗ったり背中のカバンの上に乗ったりすることもある。生きてるわけだからさ、そりゃあ動きたい時は動きたいよね。

「………」

　あり？　まただ。
「モナーク？　今度は何？」
「何だ？」
「だから今…」

　なんだこれ。なにこの感じ。なんか違う。きしょくわるい。…左！

「ポポポポポ！」
　僕が振り向くより早かった。ポコポコが僕の肩から、ぼおおお…と炎を吹いたんだ。それはさっきの小さな棒みたいなやつじゃなくて、もっとぶわっと広がるやつ。迷宮の壁いっぱいに広がってる。でも不思議とあんまり熱くない。すんごい光なんだけど、熱くない。これ…炎じゃない…？
　そのまぶしくてすんごい光の中、それでも僕は見たんだ。目をつぶっちゃうちょっと前だけど、間違いない。白い何か…ひらひら？　ふわふわ？　なんだろ、そんなのがちらっとだけ見えて、すぐにいなくなっちゃったのを。