TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[2-26]

　なんだ…こりゃ？
　いきなり明るくなっちまった…いや、そんなチャチなもんじゃねえ。真っ白になっちまって逆に何が何だかよく分かんねえ。

　後ろのあいつがさっきから妙なことばかり言ってやがるな、さすがに疲れてきたか、とかそんなことを思ってた時だった。…まぶし…いや、なんだ、もう収まっちまった。…やっぱりあのヘビモドキか？　あいつが何かしやがったのか？
「おい…」
「うわ、うん…」
　なんだかよく分からない会話だが、何がなんだか、多分あいつも分かってねえんだから仕方ねえ。
「そいつか？」
「うん、ポコポコ」
「今は？」
「寝ちゃった…僕の頭の上で」

　二つ目の『島』が見えてきた。あと三つだ。このルートなら五つの『島』を経由すればダークゾーンを抜けられる。抜けたところから一ブロックのところにB3-6-2って階段があってそこへ辿り着ければ無事に下りられることになっている。6階層目で二番目に短いルートなんだ。
　…なんで一番短いルートを使わなかったのか、って？
　半年くらい前ならそっちを使っていたさ。でも天井が崩れちまってな…床の一部にがれきが散乱しちまってる。慣れた奴なら別に問題ねえだろう。でも初心者連れて来るにはちと難しいルートになっちまった。あっちなら『島』も四つでよかったんだがな、ま、こういうこともよくあるってこった。
「ふーーーー…着いた…」
「よし。二つ目の『島』だ」
　ふとあいつの頭の上を見下ろすと…ヘビモドキがすやすや眠ってやがる。
「なあ。こいつがさっきの…？」
　やっぱりこいつもよく分かってねえんだな。完璧に疑問だらけの「？」マークだらけの目と表情でこっちを見上げてきやがる。
「なんかね、いきなりだったんだ。ぱあああっと明るくなってさ」
「…熱くはなかったな」
「うん。今までの火とは違うってことだよね？」

　迷宮の壁はこんなときでもひんやりしている。俺は軽くよりかかって、こいつも俺の横でよりかかってる。いつもよりちょっと暗いけど、ダークゾーンの中よりは明るいんだ、ここは。
「…そうだろうな」
　としか俺にも言えねえ。そもそもなんでこいつが火を吹くのか、そんなことすら分かってねえんだし。
「それとさ、モナーク。なんか、こう…ひらひらっとした生き物ってさ、迷宮にいない？」
「ひらひらっと？」
「えっとね…白かったと思うんだけど。ふわっとって言うかひらひらっとって言うか。なんかそんな感じのがね、こう、すうーーっとね」
　手を文字通りひらひらさせながら、たたっ、たたっと駆けて見せる。
「…なんだそりゃ」
「ね。こういう浮かぶ生き物ってさ、迷宮にいない？」

　浮かぶ生き物…？
「…あのな。迷宮にいるってだけでここにいるもんは全部普通の生き物だ」
　地上の連中とそう変わらんってことだ。でも飛ぶ生き物ってことなら…
「クロトビヤモリ…はちょっと違うか。いつも飛んでるわけじゃないしな」
　コウモリはどうだって？　よく勘違いされるがこの迷宮にコウモリはいないんだ。浅い階層、それこそ1階層目だとたまにいるけどな、深くなるとまず目にすることはない。鳥の仲間が極端に少ないのも迷宮の特徴の一つだな。やっぱり浅い階層になら迷い込むこともある。でも迷宮内で飛んでる鳥にお目にかかれることはまずねえ。飛ぶのをやめちまった鳥、ってのならいるにはいるけどな。

「大体、浮かぶ、ってそんなのが地上にだっているわけじゃないだろ。水の中とかそんなんじゃねえんだし」
「でもさ…僕見たんだ。ひらひらってさ、浮かんでる何か。ポコポコがまぶしいアレ吐いた時に」
「おいおい」
「ホントね、えっとね…白い、ふわふわひらひら…」
「洋服とか言うなよ…」
「あ！　そんな感じ！」
　…おいおい…こんな近くに誰かいたらさすがに気づくぜ。それもサポーターなら声もかけねえで黙って立ち去るなんてねえだろうしよ…。
「やっぱり…誰かいたのかな。なんか、変なかんじがしたけど」

　勘弁してくれ…俺はそういう話はあんまり得意じゃねえんだよ。