TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[2-27]

　うえ。モナークってばうげえって顔になってる。
　そりゃあ…僕だってこんな話はあんまし好きじゃないんだけどさ。見ちゃったもんは仕方ないよねえ？　ひらひら、ふわふわってさ、何かが飛んでた、ってことには間違いないのかな。うーん、やっぱよく分かんないけど、アレ…一体何だったんだろ…？

　二つ目のしまを出て…まただーくぞーんの中へ。
　ポコポコは、静か。僕の頭の上で、多分、眠ってる。僕は…うえ、なんかやっぱりぼおっとしてきちゃう。だめだめ、こんなとこで寝ちゃうわけにもいかないもんね。頑張って歩かないと、うん。

　あーーーふぁーーーー……。

　…ごめん、なんか…ねみゅい。
「三つ目の島までなんとか持たせろ。そしたら仮眠とれるからよ。…ほれもう少しだ」
　もなーくがね、ひっぱってくれりゅのがね、わかるんだけどね…。なんか…ゆれてりゅ…？
　あ。あかるくなった、かなー…とおもった、そんなとこまではわかったんだけどね…。

　…何だろ、夢？
　僕はクレータの薬協支部で椅子に座ってキアーラさんの話を聞いているんだ。

『マナメ、あんたも一回くらい依頼を受けないといけないね。でないとルートセラーになった意味もないじゃないかい』
　キアーラさんってのは薬協支部のかんりにんで…母さんの古くからの知り合いでもあるんだ。母さんよりはちょっとばかし年下になるんだけど。でもその母さんがなんだかそんなに年上に見えないから、そんなにヘンには見えないんだけどね。でも年の話はあんまりしちゃいけないってこないだマーシャちゃんが言ってたっけ。なんでだろうね？
『むー…なんかめんどいね』
『何言ってるんだか。行商にも出ない、定住もまだしない。幽霊ったってあれは他に職持ってるやつがなるもんだよ？』
『ゆーれい…やだなあ、そんな話しないでよ』
『幽霊ルートセラーって聞いたことないかい？　ない？　ま、なんだ、あんたもそろそろ何かしなさいな、ってことだよ。そうでないと何のために毎月銀貨一枚ここに払いに来てるんだか…って、何だ、珍しいねえ、あんたがこんな時間に上がってくるなんて』
　息を切らせて入ってきたのは、ここ二階なんだけど、一階で酒場やってるシュテラさん。酒場って言ってもね、結構たくさん食事できるからなんだか食堂とかそう言った方がいいのかも。大人だけじゃなくて僕みたいな年の子も普通に入ったりするんだ。
　だからシュテラさんも知ってるんだけど。…いや…知ってると言うか何と言うか、ね。やっぱり母さんとも仲がいいんだけど時々三人で遅くまで飲んでる時があってさ。いや、時々…時々なんだよ？　月一とか週一とか、少ない時はそんなもんなんだけどさ、母さんが朝まで飲んでて迎えに行かないと店が開かない時があってさ。…寝てるんだもんなあ、ぐーすかと。運ぶのが大変なんだ、アレ。しかもほとんどの場合何があったか覚えてないし。

『キアーラ、依頼人なの。依頼人なのよ』
『先に酒場に行ったんだ？　ああ、だったらこちらへご案内してくれると嬉しいな。えっと、依頼用の書類は…っと』
　カウンターの下をがさごそしてる。なんでシュテラさん、こんなに慌ててるんだろ？
『そうじゃないの、あの依頼なのよ…火吹き竜の、クレータの、ミノマリナ…』
　探す手を止めて、ちょっと天井見上げてる。…その時は僕も知らなかったからね、火吹き竜のことなんて。だから…余計分からなかった。何の話をしてるんだか。
『うあ…そっちか…』
『どうする？　断ろうか？　まだうちにいらっしゃるからなんなら私が…』
『そういうわけにもいかないよなあ…ええい、こっちへ上がってもらって。あたしが説明するから。…最近あんまし来なかったんだけどなあ…何だろ、賞金稼ぎか何かかなあ…』

　そうだ、あの時薬協支部に他の人はいなくて、僕とキアーラさん、そしてシュテラさん、それに…あの人だけだったんだ。
『どうも。エギア薬協支部管理人のキアーラ・カルメーロ・カルダーラと言います。…お名前は？』
『ご丁寧に。エ……・…ハ…と申します』
　なんだかよく聞こえなかった、と思うんだけど…僕がよく覚えてないだけかな。
『…ネ…、っと、…ハ……』
『アデレードと呼んでくださいな。みんなからもそう呼ばれてますから』
『そうですか。ではアデレードさん。ご依頼の件なんですが…』
　ちら、とシュテラさんを見る。やっぱりどっか困った顔、してる。
『暗黙のルールみたいなのがありましてね。うちでは火吹き竜関係の依頼はちょっとご遠慮頂いてるんですよ』
『あら。薬協支部なのに？』
『…多分マイノスのご出身じゃないから、と思うのですが。エギアやクレータでは火吹き竜のことは子供まで知ってます。有名は有名なんですが、おとぎ話みたいなもんなんですよ。本当にいるかどうか全然分からないもんなんで…こういったご依頼は、ちょっと遠慮して頂いてるんです』

　たしかに。火吹き竜のことは僕でも知ってたからね。でもあんなカワイイのだとは思いもしなかったけど。