TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[2-28]

『あらあら。おとぎ話じゃ、依頼できないの？』
『そういう意味では…』
　するとシュテラさんが、そっと前に出る…。
『火吹き竜は地下300階はある、とされているミノマリナ迷宮にいるとされていますの。行ってもやはり何もなく、依頼人とトラブルになった、ということもあります。私たちはそういうケースをいくつもいくつも見てきていますの』
『そういうことは知ってるのだけど…一応』
　キレイなメダル…僕はその時そう思ったんだけど、キアーラさんとシュテラさんの反応がね、ちょっと違ったんだ。これはアレだったんだ、モナークも持ってるあのメダルだったんだ。
『え。サポーターでいらっしゃるのですか？』
　さぽーたー…うん、その頃の僕は全然知らなかったからね。一体何のことだろ、って思ったんだけどね。さぽさぽ…？　何だろ？　ってね。

『サポーターでしたらなおのことご存知だと思いますが。…差し出がましいようですが、クレータの薬協支部でご依頼はされましたか？　あそこでも火吹き竜関係の依頼はまず受けない、と聞いています。同じようにエギアの薬協支部でも受けることはできません』
『ちょ、シュテラ、そこまでは…』
『こういうことは最初にはっきりさせておかないといけませんわ、キアーラ。あなた火吹き竜関係で今まで何回痛い目見てると思ってらっしゃるの？　一度や二度ではありませんのよ？』
『いや、でも、なあ…』
　シュテラさんって普段は物静かで優しいんだけどなあ…キアーラさんがあんまし良くないことになりそうになると、なんか怖くなるんだよね。時々だけどこういうのを見たことあるんだ。前なんか相手の人、ひっぱたいちゃったこともあってね。あの時はホント、怖かったなあ…何もしてない僕もね、背筋がぞおっとしちゃったって言うか寒いとか思っちゃったりしたし。

　するとお姉さん、ちょっと考え込んじゃった。別に怒ったりはしてないみたいなんだけど…？
『じゃあ…こうしましょ？　迷宮内の生物調査、ということで』
『『…へ？』』
　ついでに僕も、一緒に…『へ？』
『ついで、でいいのよ。生物調査のついでに火吹き竜も探してもらえれば。迷宮の中には色んな生き物がいるわ。そういうのの調査。そっちがメイン。ね？　それなら問題ないんじゃないかしら？　どうかしら？』
『そりゃあ…まあ』
　頭をぽりぽりかくキアーラさん。
『あなたもどう？　これなら問題ないんじゃないかしら？』
『えっと、まあ…そういうことなら…でも必ず何かある、と保証はできませんのよ？』
『生物調査なんだから、どんなのでもいいのよ。なんなら火吹き竜が見つからなくても一切何も言いません、って一筆書いてもいいわ。それなら…受けてくれるわよね？』

『…そういうことでしたら…』
　なんかしぶしぶって感じだけど…シュテラさん。
『そうですね。それでご依頼を受けますよ。いいね？　シュテラ？』
　カウンターの下から紙を取り出して、書き込んでいくキアーラさん。へええ…せいぶつちょうさね。うん。そういうのもルートセラーの仕事なんだ…。
『ね、今からすぐにでもどなたかルートセラーを手配できないかしら？　一刻も早い方がいいの』
『今はちょっとみんな出払ってますし…』
『夕方…くらいでしょうか、うちもここも忙しくなるのは…』
　って、なんだかそこにいた僕に視線が集まっちゃうんだな、これが。そりゃ僕もルートセラーなんだけど…一応。

　…まあ、そんな感じで僕の初仕事が決まったわけなんだけどね。

　お姉さんは薬協支部に来た時から僕が気になっていたんだって。名前を言ったら
『ああ…あのカギョリ准将の娘さんなのね？　お父様は相変わらず面白いこと言ったりするの？』
　って、なんだ、父さんのこと知ってるんだ、とか思っちゃったけど。…でも今考えてみるとさ、なんで父さんの寒いギャグのことなんかまで知ってたんだろ？　知り合い…なのかな、仕事関係だったら僕が知らない人を知っててもおかしくないけどさ。
　他にもキアーラさんのお兄さんのことまで知ってたんだ。か、か、かー…なんとかってね、やっぱり軍関係らしいんだけどそっちのなんかで何かやってるって、言ってた。よく分かんなかったけどキアーラさんとシュテラさんはすっごく驚いてたっけ。

　お姉さんって、本当に何者なんだろうね。やけに色んなこと知ってたりするんだけど…。

「う、うーん…」
「起きたか？　全く…よくこんなところで眠れるもんだな」
　あり？　もなーく？　ここは…しま？
「お前、結構重いのな。…よし。出発するぞ。あとちょいで6階層目を抜けられるからな」
　…モナーク、荷物手で持ってる。しかも座ってる？　てことは…僕を背負ってここまで来た、ってことなのかな…？