TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[2-29]

　これで「島」は三つ目だ。後二つある。何、ここまで来ればそんなに遠くはない。「島」同士の間隔が全部同じ、ってわけじゃないからな。…ほら、あそこにちょっとぼんやりしてるがたしかに光が見えるだろう？　次の「島」はすぐそばってことなんだ。その次の「島」もそんなに遠くない。ここまで来れば…まあ、あともうひと頑張りってとこだ。

　アジャの縄を持ったまま進んでいく。こんな時にカウント、とかそんなことになったら目も当てられんが、面白いことにダークゾーンの中じゃめったにそういうことはないらしい。もっとも…そんなことになった瞬間オダブツってのが一番多いらしいがな。
　相手はコチュウゴケがあると言ってもほとんど光も何もないような場所でこれまで生きてきてる。そんな連中にとっちゃダークゾーンだろうが何だろうが関係ねえだろうよ。だからこっちから見つけて準備、なんてこともできずに終わるらしい。問答無用で襲い掛かられるってのは、ぞっとしねえけどな。ま、カウントのほとんどない場所、てのは他にもあるにはある。そういう場所ってのは大抵いわくつきの伝説がなんちゃら、とかそんなとこが多い。
　迷宮の中ってのも全部が全部分かってるってわけじゃないんだが…中には呪いだとかそんなのもあるってことになってるんだが…そんなのはどうせ勘違いとか誤報なんかが広まっちまったんだろうよ。何せ歴史だけはあるからな、迷宮てのはよ。

「…モナーク」
「ん？　どした？」
「…なんか…いるみたいなんだけど」
「なんかって、なんだ」
　…カウントか？
「誰か、いるみたい…前の、しま」

　前のしま…ああ、今から行く「島」か。
　…よく見えねえが…ん？　なんだ…？　何か…動いてる？
「あぶないもんじゃないみたいだけど」
　やけに自信なさげだな。こいつにしちゃ珍しい。
「誰か、って言ったな。ヒトってことか？」
「うん…多分ね。二人いるみたいなんだけど…よく見えないなあ…」
　…見えてんのか？　あれが？
「いつもみたいになんか感じるとかそんなんじゃないのか」
「え？　そだよ？　だって何も感じないもん、今は」

　そう言われてもなあ…前に進むしかないわけだ。こいつがそんなに緊張していないってことはヘンなもんじゃないんだろう。

　用心しながら「島」へと近づく…なるほど、人間が二人いるな。ということは一人はサポーターか。もう一人は…なんだ？　やけに小さいな。女…？
「ああーーー…」
　と、後ろからいきなり駆け出しやがる。おい、どんな奴なのかも分からんってのに…。
「やっはーい！　マーシャちゃんだ！　どうしたの？　こんなとこで！」

　呼ばれた方はしゃがんで荷物の整理か何かしてやがったんだが、その声に振り向いた。
「え、えーーー…マナメちゃん？　なんでこんなとこにいるの？」
　なんだ知り合いか。年恰好は同じくらいだな。背も同じくらい…ん？　こいつ、腕に何か白い布、巻いてるな…何か書いてある。
『薬草アリマス』
　…こいつもルートセラーか。無邪気に抱き合っちゃってまあ、なんとも緊張感のねえもんだ。あんまぽんぽん跳びはねるなよ、ホコリやら何やらが舞うからな。

「あなたがこの子のサポーター？」
　ようやく「島」の光の中へ入ったんだが、壁に長身の女がよりかかっていた。俺と同じくらいの年か…ちょっと目つきがキツイかも知れんが…どうだろう？　メダルをちらり、と見せてくる。…銀のメダルに金の縁取り。Cランクか。
「ああ、そうだ」
　俺もメダルを見せる。ヤーネンみてえによく知った間柄だとこんなことしねえが、初対面のサポーターは挨拶代わりにメダルを見せ合うことが暗黙のルールになっている。これをしない奴はモグリだ、と思われて相手にされなくなる。でもモグリなら会おうともせずにさっさとどっか行っちまうもんなんだけどな。後ろめたいことがある奴なんてそんなもんだ。
「俺はモナーク。あんたは？」
「ブルームよ。よろしく」
　軽く握手。
「…初心者、ってとこ？」
　そっと耳に口を寄せてくる。もちろんあいつのことだ。
「お互い様じゃないのか？」
　そう言うと…軽く肩をすくめて見せる。
「まあね。誰でも最初は初心者なんだけどね」