TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[2-30]

　迷宮に潜る連中だけじゃないと思うんだが、慣れてくると初心者かそうでないか、ってのは意外と簡単に見分けがつくようになるもんだ。何と言うか…雰囲気とかそんなもんかね。経験者は特有の「ダレさ加減」とか「落ち着きさ」とかそんな雰囲気が漂ってくる。これがベテランになるとそういうのを飛び越えちまって貫禄が出てきちまうもんだが…そんなのは滅多にいねえな。サポーター協会のおえらいさんならそういうのもいるかも知れんけどな。
「大変でしょ？」
「そうでもねえな」
「あらあら、無理しちゃって」
　言いながら目が笑ってやがるよ。こんな風に受け答えができるってことは、こいつもそれなりに場数を踏んでるってことか。そうか、Ｃランクだもんな。俺らの年代じゃ、いないことはないが…そんなにたくさんいるわけじゃねえ。…そうだ、俺らの親父くらいの年代ならＣランクは当たり前なんだ。なんせＢランクが相当数いたりするからな。
「…そろそろ出発する？」
「ああ。こんなとこに長居はしたくねえ」
　こいつらは…なんか色々とくっちゃべってやがる。同年代の知り合いってとこだろうから話すこともたくさんあるんだろうよ。つまんねえことでもこういうおしゃべりってのは楽しいもんらしい。ジーナとかアリサがよくこんな風にしゃべってたが…俺にはよく分からんね。
　すると、ぱんぱん、と手を叩いて
「はいはーい、おしゃべりはそこまでにして。準備が終わったら次の島へ向かうわよ」
　…どこの先生だ、あんたは。

　話してみりゃ、こいつの友達ってのも悪いやつじゃねえ。
「初めまして。マーシャ・ヘティ・ノックスと言います。マナメちゃんがお世話になってます」
　と、ぺこり。…悪いやつどころかこいつよりデキがいいんじゃねえのか？
「俺はモナーク。こいつのサポーターやってる。あんたもルートセラーなのか？」
「はい。マナメちゃんとは家が近いんですけど、一緒にルートセラーになったんです」
「うちのね、二軒となり。だから前々から一緒に遊んでたんだよ？」
「それから私は行商に出るようになったので…ホント、久しぶりなんです」
　と、またぺこり。しかしこの年で行商かよ。
「エギアの中でだけ、なんです。伯母の家がエギアの外れにあるので、そこで色々教わったりそこから町中に行商に出たり…」
　なるほどね。俺も何回か行ったことあるが、マイノス王国の首都だけあってエギアってのは結構広いんだ。それも細かい道もいっぱいあって入り組んでいて、ちょっとした迷路みてえになってる。迷宮との関係は不明らしいが、それなりに古くからある都市ってことになるんだろうな。同じ町の中で行商って言ってもほとんど知らねえ場所で行商ってのとそんなに変わんねえんじゃねえのか？
　そうそう。新米ルートセラーは中堅どころとか専門知識のある人間のとこに弟子入り…ってほどでもねえか、一緒にくっついてあれこれ教わるもんらしい。いや、必ずそうしないといけねえって決まってるわけじゃねえ。
「えー、マーシャちゃんあの伯母さんのとこにいたんだ。だからお家にいなかったんだね。全然気づかなかった…ね、ね、どんなこと教えてもらってたの？　僕はルートセラーになってからも何もしてないからよく分かんないんだ」
　…こういうのもいるからな。そもそもなんでお前はルートセラーなんぞになったんだよ…。

　聞けばキロの変種を探しているらしい。あれは変種が多いからな…ペパ弾に使うのもキロの実の変種の一つだ。
「依頼でも受けたのか？」
　妙な依頼だな。まあ、人のことは言えんか。
「その伯母さまからの依頼なんですって」
「…試験ってか」
「そんなとこです」
　ふうむ。…やけに自信ありげだな。
「手がかりでも見つかったのか？」
「まだ確証はないのですけれど…」
　ちらり、とブルームを見上げる。一つ、微笑みながらうなずきを返す。
「つる性のキロって…ご存知ですか？」

　本来ならこんな迷宮みたいな狭い場所に自生するもんじゃねえんだ、キロってのは。何せ大きな木になる実なんだからな。大抵は山すそだとか平原だとか、そんな開けた場所の林や森の中に生えてる。そんなに厳しい条件じゃねえらしい。噂じゃ植林してキロの実やらさらに回復の効果が高いピルロの実を毎年たくさん採取してる業者…ってのもいるらしいがね。天然物と栽培物じゃ、効能の差が出るって話もあるから本当に噂ってこった。
　そんなキロの…つる性のやつ？
「聞いたことねえな」
「何々？　何の話？」
「岩肌とか壁とか、そういうとこをつたって生えるつる性のキロを探してたの」

「つるの…きろ？　つるきろだね、そりゃ」
　腕組んでうんうんとかうなずくな。どうせ何にも分かってねえくせに。