TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[2-31]

　しっつれいしちゃうな。僕だってキロの実くらい知ってるよ。

　キアーラさんのとこでも売ってたし、母さんの雑貨屋でも売ってたもんね。ただ、なんだっけへ、へ、へんす、へんすか、とか言うのがいっぱいあって色んな種類があるんだ、って言ってた。その中にね
「つるきろもあるんだよ。でもね、だまされちゃいけないって母さんは言ってたね。よく見ると大きさも小さいしカラもやわっこいし。ほんもののキロの実よりもずっと安く売るもんなんだってさ。それに、キロの実とは全然違う、別もんだってキアーラさんも言ってた。木と草の違いとかそんなんがあるんだって」
　な、何…？　なんでそんな目で僕を見るのさ、みんな。特にモナーク。

「お前…なんでそんなことまで知ってるんだ？」
「なんでって。だからうち、雑貨屋なんだって」
　雑貨屋ってとこは色んなもの売ってるとこなんだよ？　母さんの手伝いだってやってたんだから、それっくらいは知ってるよ。
「たしかにマナメちゃんのとこでもキロの実、売ってたけど…」
　うんうん、そう。そーだよねえ。マーシャちゃんはやっぱり分かってるなあ。
「つる性のキロの実、なんてあった？」
　うげ。

「あったよお…ほら、うちの店のさ、キロの実コーナーのさ、そこからちょっと右のさ、ピルラ草とか未処理のトッコの実とかさ、そっちの方にあったじゃん。『つるきろ』って書いてあってさ…覚えてない？」
「えーーー…？？？」
「覚えてないの？　母さんにさ、『これはぱちもんだから気をつけな』って言われたじゃん？　『ぱちもん』の意味が分からなくて散々聞いたじゃん？　ねえ？」
「…あったかなあ…そんなこと…」
「そいで『ぱちもん』てのは昔ぱーとちーって双子の姉妹がいて、二人ともとっても良く似ていてどっちがどっちだか分からなくなるからよく似たもんを『ぱちもん』って呼ぶんだって…」

　あり？　なんか…なんでみんなそんな笑いこらえた顔になってんの？　僕なんか面白いこと…言った？

「マナメちゃん…思い出した…それ…おば様の冗談だって…」
「へ？」
「…からかわれたんだな、なんだその話。ぱーとちーって双子かよ…」
「うふふ、いいんじゃない？　かわいらしくて…あはは」
　なんでみんな笑うんだよう！　笑うのはネタの時にしてよ！　こんな、こんなんじゃ…僕がただのバカみたいじゃないかーーー！！

　………

「…ニセモノ？」
「ああ。パチもんてのは本当はそういう意味だ。あんまりいい意味じゃねえ。けど…まあ、間違ってはないな」
「地方によっては普通に使うわね。でも、全然使わない地方でも大抵は通じるわよ」
　そっかー…じゃあ…
「つるきろってただのキロの実のニセモノなんだ？」
「そうとも言うってことだ」
「でも簡単にニセモノ、と言い切ってしまっていいのかどうか…それも伯母の依頼なんです。あまり研究されていないらしくて薬効もよく分かっていない。採取できるのも深い洞窟の中とも言われてますし…足場になる岩さえあれば陽光があってもなくても気にしない、とか色々あるんです」
　およ。マーシャちゃんなんだかカッコいい。
「まあ、その辺の調査ってことなのよね」
「はい」

「で、そのつる性キロってのは見つかったのか…？」
「いえ。まだ…」
「じゃあさ、エギアに戻ってうちの店で…むぎゅ」
　なんだよおモナーク、いきなり頭、押さえないでよお。
「酒場の噂は聞いたか？　階層ごとに植生ってのは違ってくるんだ。俺も全部は知らねえがつる植物が多い階層なんてのもあるんじゃないのか？」
「そうね、たしかにそういう話は聞いたことあるわ。…もう一度階層ごとに洗い直してみようかしら？　ねえ？」
「そうですね。そうしてみます。ある程度でも形にしないと地上へは戻れませんし」

　うーん…なんだ難しそうな話だねえ…僕にはよく分かんないや。…あ、ポコポコ？　今はじっとしててね？　後でまた相手してあげるから、さ。