TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[2-32]

　と、言うわけでなんとか階段についたわけだが…やっぱりダークゾーンてのは疲れるわ。
　カウントがまずねえってことだけが救いってやつだな。暗いから歩きにくいし神経使わなきゃなんねえし…。
「あーあ、マーシャちゃん行っちゃった…」
「向こうも仕事で来てるんだ。当たり前だろ」
「…うん。ま、そーなんだけどさ」
「そのうちまた会えるだろ、そんなもんだ」
　ぽんぽん、と軽く頭をたたいてやると、何度かうなずいたりしてやがる。こいつもこいつなりに色々考えてはいるんだろうな。

　マーシャとブルームの二人はこれから上の階層を目指すんだそうだ。
『少しでも陽光の入る方がいいのか、その辺からして分かりませんし』
『2階層目くらいから洗い直してみるわ』
　たしかに2階層目くらいなら少しでも太陽の光が入る場所、てのもありそうだ。何せ古い迷宮だからな。実際、1階層目にはばりばり光が入り込んでくるのは前にも言ったよな？　その1階層目の床だって完璧に光を防いでるわけじゃねえ。ひび割れやら床石の欠けたところなんかもよくある。そういうちっとでも光のあるところへタネ（どんなタネだか知らねえが）が迷い込んで定着しちまった…てのはあってもおかしくはねえってことだ。
『うぐ…マーシャちゃん…元気でね…』
『なに泣いてんのよお…大丈夫だから、ね？　マナメちゃんもしっかり頑張ってね？』
『…えと…ぐしゅ…なんだっけ…僕ががんばるって…』
『お前の仕事は迷宮内の生物調査だ。そろそろある程度でも仕上げておかないとな』
『せいぶつ…ちょーさ…うんうん、そうだった…ぐすっ』
『生物調査？　あなた達の依頼ってそういう依頼なの？』
『ああ』

『じゃあ…謎の浮遊生物って…知ってる？』

　ブルームが教えてくれたところによると、そんな噂が酒場で最近時々出てくるんだそうだ、が…。
『ほら。あのスバラシイおじいさん』
『ああ、100階層目まで潜ったことあるって言ってたっけか』
　サポーター協会の会長と同期だって話で、100階層目の話になると『スバラシイスバラシイ』しか口にしなくなるんだ、あのじいさん。
『…え？　私が聞いた時は200階層目まで潜った、って…』
　じいさん…大丈夫か…？　色々と。まあ、酒場のヨタ話なんかそんなもんだけどよ…。
『最近よくするのが、迷宮内でふわふわ飛び回る生き物がいる、って話なのよ…』

　前にも言ったがちょろっと滑空したりするクロトビヤモリとかそういうのもいる。しかし「飛ぶ」生き物てのは…迷宮内にはいない。0階層目か1階層目にコウモリがいたりするが、深くなるとまずいねえしな。
『ふうん…？』
『私も聞きました。こう…ふわふわっと漂うように飛ぶ生き物が迷宮にいるんだ、って』
　手をひらひら、ひらひら、と。ついでにバカの目もそれにつられてひらひら…と。
『…それホント？』
『さ、さあ…ホントかどうかは分かんないけど』
『そもそもあのおじいさんの話って、ホントかどうか分からない話ばかりなのよね』
　そりゃあ…そうなんだが。
　何せあの歳で今も迷宮に潜ってるとは思えねえからな。ああいう話のほとんどは酒場で誰かがしていた話を聞きかじったとかそんなんばっかだろうよ。それでも…ああいう話が好きな連中が酒場には多いからな。ヒマな連中ばかりだし。
『で、どんなのだって言ってたんだ？　その浮遊生物ってのは？』

『何らかの事情で飛べるようになったクロトビヤモリじゃないか、って。滑空じゃなくてね』
　…何らかの事情って何だよ。そもそも滑空しかしてねえやつがどうやって飛べるようになるんだよ。
『あれ？　あのおじいさん陸生クラゲの一種だ、とか言ってませんでしたっけ？』
　…陸生の…クラゲ？　ホントならすげえ発見になるんだが…それでもそんな風に飛べるもんなのか？
『…そうだったかしら？　何度か聞いたのだけど…私あんまりお酒強くないからはっきり覚えてないのよね』
『私はジュースでしたから覚えてますけど。…あ、でもクロトビヤモリとかそんなことも言ってたような…そんな気もするんですが』
『あはは。つまり二人ともよく分かってないってことだね』
『まあ…そんなものね』

　と、まあ…なんだ。結局のところはよく分からねえ。何しろ噂話の域を出ていないんだからな。それでも気にならないと言えばウソになる。なんだかそれっぽい、ミョーなことにもなってるしな。俺も…こいつも。

　二人はそのまま俺らとは逆ルートで上を目指す、ということでダークゾーンに消えていった。そして俺らもやっと階段にたどりついたってわけだ。