TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[3-2]

　もう…モナークってさ、やっぱ細かすぎるよね？

　うっきーもとみーがえるのことをさ、色々教えてくてるのはいいんだけど…字が汚いとかなんでどんどん曲がってるんだ、とか、そっちも色々。もう、ね…どうでもいじゃん、そんなこと。
「よくねえよ。お前の仕事なんだろ？」
　…は。
「しかも初仕事なんだ。きちっと仕上げてみろ」
　そ、そうだったんだ…これ、僕の初めてのおしごとなんだよ…そうなんだよ…うん。
「じゃあ、頑張ってみないといけないね？」
「じゃあ、じゃねえよ。仕事なんだ。きっちり頑張れ。ほれ、とりあえず俺の言ったことをメモしろ。さっさとやれ。…だからなんでお前はそう字が汚えんだよ、それになんでさっきまで横に書いてたもんが縦になってくんだよっ！」

　…うげえ。やっぱ細かい…。

　あんまし字なんか書いてなかったもんね。今までだってさ…母さんの店の手伝いする時くらいかな？　それでもそういうけいさん？とかそういうのは母さんが全部やってたし。僕には簡単な書き物くらいだったし。あ、でもねマーシャちゃんは違うよ。マーシャちゃんは伯母さんからそういうのも習ったんだって、さっき言ってた。だからこういうのも得意なんだろうな…。
「よし。なんとか様になってきたか。いいか…ウロコモグラの特性は、だな…」
　あう。まだ続いてる。えっと、よっと、こう書いて…。

「…ふへ。もう終わり？」
「ウロコモグラとミマヒキガエルモドキについて、おおよそはこんなもんだ。…いいか？　次はメモったことをそのノートへまとめていくんだ」
「まとめる？」
「そうだ。俺が話したことを聞いてどう思った？　お前なりの考えを書いていくんだ」

　コチューゴケはここんとこ元気でね。あっかるい光を僕らにくれてる。僕は今、ちょっと出っ張ってた石に腰かけて…おお、なんかカッコいい？　こういうの？　膝の上にモナークにもらったノート乗っけてさ、右手にはペンがあるわけ。ペンと言っても羽のあるやつじゃなくて…軸はなんとかって草の茎。だからこんな風にペンのお尻を頬へ当ててみたりして。
「ふむ。まとめる…」
「分かって言ってんのかよ」
　モナークは相変わらず座らないね。軽く腕を組んだまま。
「…まあいい。そうだな…ウロコモグラの手足から行ってみるか。見てどう思った？」
「かったそーだった」
「あれは土をかき分けるのに必要なんだ。…そういうとこから書いてみたらいい」

　そう言われてもなー…うーん…。
「ね。モナーク。あれってうっきーってモグラなの？」
「そうだ。ウ・ロ・コ・モ・グ・ラはれっきとしたモグラだ」
　…なんでわざわざ区切って言ったんだろ。
「じゃあさ、地上には出れないんだね」
　死んじゃうんだよね、たしか。モグラは地上に出ると。
「…お前、もしかしてモグラは地上に出たら死ぬ、とかそんなこと信じてんのか？」
「違うの…？」
　えー、なんかそんな話を古物商のおばあさんが…。
「そんなわけあるかよ。そんな簡単に死ぬ生きもんがいるかよ。…そりゃただあんまりにも慣れてない環境へ放り出されたからびっくりして混乱しちまってるだけだ。ウロコモグラも一緒だ。いきなりコチュウゴケの光の中へ出てきちまったもんだから、驚いてあちこちへぶつかりまくる。そりゃケガ人なんかも出るって話だ」

　へー。
「んじゃあ…あのかたそーな手、で…掘っていく…」
「正確には違うがな。…かき分けると言った方がいいか」
　かき…わける…？
「土の中を進むってのは実は結構大変なことなんだ。…よく考えてみろ？　土の中を進むってことは自分の体を押し込んでいくってことだ。その自分の体の分の土はどうなる？」
「えっとー、えっと」
　じぶんの…つち…って、何の話？
「地上近くだとモグラ塚ってのができる。かき分けた分の土を地上へ押し出しちまうんだな。でも迷宮みてえな場所だとそんな余裕はねえ。…どうする？」