TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[3-9]

　うわ。すごい楽しみ。だってさ、床が動くんだよ？　どんな風に動くのかな。

「もしかしてさ、あっと言う間に100階層目、とかそんな風にも動くのかなあ…」
「お前、移動床ってどんなのだと思ってる？」
「いどうするんだからさ、前にも後ろにも上にも下にも動くんでしょ？」
　そしたらモナークってば、大きな大きなため息ついちゃって。
「床は床だ。どうやったら上とか下に床が進むんだ。…そういうのは階段とか落とし穴だっつーに…」

　あり…なんか違うのかな。僕の考えてたのとは。なんか、こう…この床のね、石の板みたいなのがうにゅうにゅっ、ひょいひょいってあっちへ伸びたりこっちへ伸びたりするのかな、楽しみだなあ、とか思ってたんだけど。

「どこの世界にそんな動きする床がある。床だぞ、床。俺の言ってる意味が分かるか？」
「ゆか…って、コレ？」
　下を指してみる…。
「そうだ。たしかに石の板みたいなのがあって、それが進んでるんだ。だけどそれは前とか後ろとか、それだけだ。…下の階層とか上へ戻ったりはしねえよ」
「でも動くんでしょ？　移動するんでしょ？」
「それはそうだ。でもな…多分お前の考えてるもんとは全然違うってこった」
「動くんだったら上とか下とかに動いてもいいじゃん」
「あのな…ああ、もう、めんどくせえ」
　わしわしっと髪の毛かきむしってるモナーク。どしたのかな？
「実際に見てから驚け。移動床があるのは次の9階層目だ。いいな？」
「…えっとね」
「い・い・な？　ほら、さっさと進むぞ！」
　怒っちった。なんだかなあ。

　でもモナークはそう言うけどさ、楽しみなものは楽しみだよね？　今から楽しみにしてても悪くないよね？

　8階層目は…何だろ、いつもどおりなひとやすみ、って感じ？
　カウントって波があるよね。あったりなかったりなかったりあったり。ある時は多いんだけどない時はぜんぜんなかったりね。いっつもカウントばっかじゃ疲れちゃうけどぜんぜんないってのもね…なんだか、ちょっと。
　それにね、しばらく進んだ頃にモナークがぼそっと言ったんだ。
「ああ、そうか。もう夜か」
　コチューゴケの光り方で昼か夜か分かる、ってモナークは言うんだけど。僕にはまだまだぜんぜん分からない。
　ぺらり、と地図を出して…
「この先にちょうどいい場所があるな。そこで休むぞ」
「うん」
　さっきもちょっと休んだし別に疲れてはないけどね。でもやっぱ夜は寝るもんでしょ？

　着いたとこは乾いた石の床があって、ちょっと大きな石がごろごろっとしてるとこ。その石の上に腰を下ろして。さらさらっとした手ざわりだね。モナークもこういう時は座るんだよね。もうすぐ寝るからってことなのかな。
　その前にちょっと食っておくか、とまたまたモナーク。おおう。
「そうだ、僕なんか忘れてたよ…お腹減ってたんだ…」
「…大丈夫か、お前？」
　食べるもんはまとめてモナークにあずけてあるんだ。でも僕も少しは持ってるんだよ？　なんかあった時に大変だからね…って、ポコポコと会った時みたいなことはそうは起きないかな。
「あの荷物あさりどもにいくらか持って行かれちまったからな…」
　そうだった…。こういう場所だとあのヘンな笑い声だすアレも来にくいんだって話だけどさ。
「でもまあ、大分残ってるな。ほら、これを食え」
　干し肉となんかの木の実。ポコポコは元気にそこらの壁のコチューゴケ食べ始めちゃった。
「…そろそろあったかい食事が欲しくなったりしないか？」
「？　なんで？」
「迷宮内は火が使えないからな。町にでも行きゃ別だが、普段はこんなもんばっかだ。だからどうか、と思ってな」

　…うーん…。
「そんなに欲しいとかは思わないかな」
「…そうか」
「こういうのって嫌いじゃないし。悪くないって思うしね」