TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[3-10]

　うちの母さんが料理へったくそなんだ、これが。

　へったくそ、っていうかなんて言うかね。僕が最初に他の家のごはんと違うんだ…って気づいたのは初等学校の頃だったっけ。
『きのうのばんごはん』
　ってタイトルで作文書くことになったんだ。で、当たり前だけど昨日食べたものを思い出して書いていくんだけど…。

　となりの子がちらっと僕が書いてるとこ見ちゃってね。
『マナメちゃん、そんなの食べてたの？』
　とかそんな風に大騒ぎになっちゃったんだ。

　そりゃあ、まあ、ね。
　木の実とか山でとれるのは生が基本。他の肉とか魚とは焼くだけ。それも外で焼いて、中で食べるってそんなもん。ふつーならさ、台所で煮たりとか揚げたりするでしょ？　そういうのが全然ないんだ、あの時のごはん。
　…うん、そう。そうなんだ…これってほとんどは父さんが自分のくんれん用だかなんだかの時に食べてるやつなんだよね。ああいうとこってさ、どっか行く時は食料も持って行くものらしいけど…できればげん、げん、げんちちょーちょーちょーなんとかするもんなんだってさ。だからうちでもこういうのを食べたりするんだ。あ、毎日ってわけじゃないよ。あの時はたまたまだったんだよ？

　エギアは結構大きな町だからさ、ここならではの料理とかそういうのも多いんだ。
　よその土地から、マイノス王国じゃないところから来た、ってひともいるしね。
　ほら、薬協支部の下のさかばのシュテラさん。怒るとおっかないひと。
　管理人のキアーラさんはエギア生まれのエギア育ちなんだけど、シュテラさんは違うんだ。えっとね。たしか…どこだっけ、ま、いっか。
　とにかくどっかよそから来たひとなんだって。だからさかばで出してる料理もちょっと違ったりしてるんだ。

　どんな感じの料理なのかって？

　そ・だ・ねー…エギアってさ、近くに水場がないじゃん？　うみとか大きなかわとか。だから魚の料理ってほとんどないんだ。
　今でも新鮮な魚ってことになると他の町へ行かないといけないんだ。マイノス王国って海と繋がってないから違う国へ行かないといけないのかな？　それともあっちから運んでくればいいのかな。その辺はよく知んないけどさ。シュテラさんの料理もそういう魚、特に生魚とかは使わないんだけど…海草とかね。干した魚じゃないけど魚みたいなの、とかね。何て言ったっけなー、うーん…そうだ、かっこ、かっこした海のものをよく使うんだ。
　そういうのはエギアにもあるんだけどね。でも使い方が違うって母さんはよく言ってたよ。
　そもそも母さんがキアーラさんやシュテラさんと知り合ったのは、なんか、そういう食べ物を食べる場所で…なんかあったから、って前に言ってた。うん。なんだったっけな…なんかあった、ってのはたしかなんだけどなー…ごめん、よく覚えてないや。

　そんな母さんなんだけど。でも料理はあんましうまくないんだよなあ…。

　そのまま焼くか揚げるか、ってのがいつもかな。細かく切るとかそういうのも苦手みたいでさ、ほとんどはかなり適当にぶった切ってるね、ありゃ。味付けも超てきとー。で、時々父さんがくんれんみたいなことやってるんで、そういう時には『さばいぼー』なごはんになったりするんだけど。
　だからってわけじゃないけどキアーラさんとかシュテラさんに時々ごちそうになるとね、うーん…たまんないって言うかさ、なんて言うかさ。

「モナークもあったかいごはんとか欲しくなるんじゃないの？」
「俺らはいつもこんなんだからな。そうでもないさ。それに…こういうのも仕事のうちだ」
　干し肉ってしばらく噛んでる方が柔らかくなるんだよね。
「地上へ戻った時の楽しみにもなるんだ、うまいメシってのは」
「そんなもんかな」
　よく分かんないや。僕はこれでも十分…ってほどでもないか、でもマズいとかイヤだ、とかそこまでは思わないよ？
「そんなもんだ。潜る奴は相当長い間潜ってるもんだからな、そういう連中にしてみたら俺ら以上に楽しみになるんだろうよ。…さて、食ったら寝るぞ」
「うん」
　毛布へごそごそ。おっと、ポコポコを忘れちゃいけないね。枕元の筒へ…っと。
「ね。モナーク」
「なんだ？」
「長く潜ってるひとってさ…どれくらい潜ってるもんなの？」