TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[3-12]

「分かった分かった。だからそれはもうやめろ」
「うんうん。で？　で？　で？」
「約束だよ、約束。そういう約束があったんだ、そういうことにしてくれ」
「…約束ぅ？」
「そうだよ。俺は寝るぞ」
「誰とさ」
「古いなじみだよ。…もういいだろ、寝る。寝るって言ったら俺は寝る」
　なんだかまだぶつぶつ言ってやがったが、無視だ無視。寝るっつったら寝るんだ、俺は。

　…そのせいか何だか変な夢を見ちまった。

　ガキの頃の風景だったと思う。クレータの…どこなんだろうな、よく分からねえや。
　いや、俺の家の前かな。それともあいつの家の前だったか…？
　とにかく俺は今の年齢のまま、そこにいるはず…だ。夢の中のことだからな、詳しいことは分からねえ。ただ、俺がそこにいて、あいつもそこにいることは間違いねえと思う。そうだ、あいつはガキの頃みてえな格好をしてたはずだ。そうだ、あの頃と同じ。
　何か、何かを止められていたような気がする。必死に。
　どこかへ行くのを禁止されたような…何だろうな、いや、禁止とかそんな厳しいもんじゃないな、行くな、と言われたのか…そんなもんだろう。

　ああ、そう言えばそんなことあったっけな。少し思い出してきた。
　それでもかなり昔のことだから発端は覚えてない。ケンカしたんだ。あいつと。そこで何かを止められて…何だ、本当に何を止められたんだろう。
　でも俺はそれでもやる、みたいなことを言ったはずなんだ。それで…。

　ええっと。何がどうなったんだっけな、その後？　夢なんだからそんなもんかも知れんけどよ。はっきりしたことなんざ、分からねえってか。

　………

　軽く目をあけてみる。何かの音がしているような気がする？
「あ。モナーク起きた」
「…ずいぶんと早いな」
「だって全然疲れてないもん」
　準備運動か何かか？　ぐるぐると腕を回したり腰を回したり。お、頭の上にヘビモドキがいやがる。よく落ちないもんだよ。
「そうか。そりゃ良かった」
「…モナーク？」
　膝に手をついてこっちの顔をのぞきこんでくる。顔の位置が真逆だ。ったく、何だよ。
「なんか…泣いてない…？」
「あ？」
　お…なんだこれ、なんで涙なんか出てるんだ…？
「泣くわけねーだろ。最近目の調子がちょっとおかしいからこうなってるだけだ」
　おいおい。目にたまってるとかそんなもんじゃねえな…。
「そお？　ならいいけど…」
「ああ。いいんだ。おら行くぞ」
「うん…」

　さっさと荷物をまとめて8階層目を進む。
　次はあの9階層目なんだよなあ…移動床だ。対応がなあ…ほんとややこしいんだ。一応『走行図』って言ってこの床に乗ると最終的にはここに辿りつく、てなことを示している地図もある。そりゃあ、これまで一体何人が通ったか分からんくらいの場所だからな。そこそこ詳細な地図があってもおかしくはねえ。もっとも、移動床は全部の行き先が分かってるってわけじゃねえけどな。
　ただ…行く先が分かっていてもうまく『基本ルート』と呼ばれる安全に下へ行ける移動床に正確に乗れるか…というのが問題なんだ。何せこのバカが何かしでかしたらいきなり何かヤバいことに…って可能性もねえわけじゃねえ。

　床はこれまでのようなただ石が敷き詰められてるだけじゃなく、ブロックのように分かれている。そのブロックごとに床が動いている。9階層目はほぼ全域がそうなっているんだ。だから他の階層と違うことも多い。
　一つは音かな。迷宮と言えば静かなもんなんだが、移動床のある階層は常に音がしている。ごろごろと石がこすれるような音から、がちゃん、がちゃん、と金属っぽい何かが動いているような音とか色々ある。いや、それでもお互いの声が聞こえねえってほどじゃない。ただ、結構耳につくからな…8階層目で休んだのはそのせいもある。あんなとこじゃ寝れねえよ。
　そしてもう一つ。ほぼ全部の床がいつも動いているんだ。その光景はある意味かなり異様だ。なんでこんなもんがこんなとこにあるんだ…とか思っちまうぜ？　どれか一つに目を止めたら目が回りそうなくらいなんだ。