TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[3-13]

「よし。C3-4-6の階段…と。ここが9階層目だ」
　っていつものようにモナークは言うんだけどさ。

　なんじゃこりゃ。

　あっちこっちからいっぱいいっぱい音が聞こえてくるんだ。がちゃがちゃとかそんな音。耳ざわりって言うか何て言うか。
「…ポポポ…ポポ」
「ポコポコもうるさいって思うよねえ。…でさ、モナーク、どこを歩くの？」
「これだ」
「これって…」
　何このうねうねのたうちまわってる床。あっちゃこっちゃへえらい速さでうごいてるんですけど…。
「これが移動床だ。あれだけ見たがってたろ？」
「そりゃあ…見たいとは思ってたけどさ…」
「どうだよ？　感想は？」
「かんそーも何もさ…」

　もう一度。なんじゃこりゃ。

　さすがに階段のまわりはうごいてなくて、でも二、三歩くらい歩くともう床がうごいてるようなかんじ。
　足のふみばもないってやつですか？　本当に床ぜんぶがうごいてるんだよ？　うにゃうにゃうにゃうにゃ。一体どこをふめっちゅーの？　みわたすかぎりぜんぶが本当にうごいてるんだ…。
「気をつけろよ。間違ったのを踏むととんでもねえところへ連れていかれるからな」
「…とんでもないって…？」
　がっちょんがっちょんとかそんな音…いやいやしゃーしゃーとかそんな音も…。
「前にも言ったが移動床そのものは違う階層へ行ったりはしねえ」
　少しだけどモナークも声を大きくしてるね。
「そーだったっけー」
　だから僕も大きな声で返してみたりして。

「…だけど違う階層へ向かう階段、その前に連れて行かれることもあるんだ」
「じゃー、ひきかえせばー？」
「ここと同じだ。ちょっとだけ何もないスペースもあるが、階段の周りも全部移動床なんだよ。引き返そうにもぐるりと回って階段の前に戻されちまうのがほとんどだ。ま、階段を使わなければ他のルートへ進めるようになる、なんて場所もあるにはあるが…そんなのは稀なケースだ」
「……」
　がっちょんがっちょん、しゃーしゃーしゃー…。
「何せ移動床ってのは全部が完全には解明されてないんだ。行き先不明の床もある」
　地図を見せてくれたんだけど…うわ、たしかにいくつか黒くぬりつぶされてたりナナメに線が引いてあったり…これまでの地図とはだいぶちがうね。

「だから基本ルートを外れるとやっかいなことになる。いいな？　余計なことすんなよ？」
「う…うん」
「ダークゾーンの時と同じようにアジャの縄を持て。俺が前でお前が後ろ。慎重に行くぞ？」

　そう。しんちょーにしんちょーに…。

　モナークが地図を見て、ゆびをあっちこっちへうごかして…「よし」とか言ってからそっと床の一枚に足を乗せる。
「うほう」
　うわ。体が…ぐん、って引っ張られたよ？　何々？　これ？　なんで？
「タイミングを合わせろ。お前ならこういうのも得意だろ？」
　モナークは足もうごいてないのにどんどん前に行っちゃって…僕もそのまま引っ張られて…あ、あ、ああ…。

「…なんだ、かんたんじゃん」
「…すげえな、お前」
「そっかな？」
「普通、初めて移動床に乗ったやつはしばらく動けねえんだ。その場に座り込んじまったりな。それがまあ…なんだ、ここまでさっさか動けるやつ、俺は他に知らねえよ」
　なんだかよく分かんないけどほめられたのかな、えへへ。