TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[3-18]

「ポコポコ！」

　止めるヒマなんかあるかい、あのバカ、やっぱり勝手に動きやがった。
「おーい、ちょっと待てえ！」
　って、待て、と言っても待てるようなもんじゃねえんだがな。つい叫んじまったが、あっという間にあのバカは移動床で消えて行っちまった。

　…さて…。
　どうしたもんかね。

　ちょっと引っかかるのがあのヘビモドキの動きか。あのバカもあわてて連れ戻そうとしてたみてえだしな。あれが何かやったってことか、それとも何かあるってか？　どうにも分からんが…ふむ。
　…お、分岐点だ。ここは今までの中でも広い方だ。4×5で20ブロック。もしかしたら最大じゃねえかって話もあるくらいなんだが…。
「よっと」
　もちろんここは『本流』だ。ここから地図通りにそれぞれの移動床に乗ってけば、それほど時間もかからず次の10階層目への階段に辿りつくことができる。さっきみてえな移動床から移動床への移動、なんてめんどくさいのももうないしな。山場は過ぎた、ってことなんだが…。

　くそっ。ったくもっとめんどくさいことになりやがった。

　この地図で大体の行き先は分かる。移動床はそれなりに解明されてるからな。それが救いってとこかね…？
　あのバカが乗った床がこれだから…うん？　最初の分岐点はこれか？　そうなると…こっちの移動床に乗るか？　この分岐点から出て行く床は二つある。順当に考えりゃ一番近いのに乗ろうとするわな。こっちの床なら次の分岐点で合流できないこともないが…。
「あら。あの子がそう単純に動くかしら？」
「だな。そりゃそうだ」
「例えば途中で別の移動床に跳び乗っちゃうとか？」
「ああ、たしかにありそうだ…って、なんであんたがここにいる？」
　アデレード？　後ろから肩越しに覗き込んできてる？
「なんだかずいぶんお久しぶりね。元気してた？」
　って笑ってやがるんだが…。

　移動床のある9階層目はまず他のやつと会わねえことでも知られている。理由？　簡単だ、自分の思うようには歩けない場所なんだぜ？　ちらっと姿を見るくらいはあっても会って話をする、とかそういうのはかなり難しいってこった。…もちろん全然ねえってわけじゃねえ。行く先はみんな同じ10階層目への階段なんだからな。階段の周囲は分岐点と一緒で床は動かねえからそこで偶然、ってことはあるにはある。
　だけど分岐点でこうやってばったりってのは…まずねえぞ、こんなの。
「ほとんど同時に着いたのよ？」
　相変わらずつかめねえやつだ。のほほん、と笑ってやがるが…いくら俺でも向かう先の分岐点に人がいるかいないかくらいは分かる。さっきまでは誰もいなかったんだ。逆に言や、20ブロックしかねえんだぞ、ここは。いくら最大級に広い分岐点だって言っても歩き回る、ってほどもねえ。せいぜいぐるぐる回るくらいが関の山だ。そんな場所で人がいるかいないか、なんてすぐに分かるだろ？
「…そうかい」
「あら。信じてないの？　あれよ」
　移動床の一つを指す。…そっと地図で確認してみると、たしかにこの分岐点へ流れてくるやつだ。元はどこから流れてきやがる…？　8階層目からの階段、か。いや待て、分岐点を三つも経由してきたのか…？
「流れの速い移動床か」
「そう。あれが一番速いのよね」
「…そりゃ、そうだがな」
　そう言われてるのは間違いねえ。間違いねえんだが。

「あれに乗れればこの分岐点には来れるもの。良かった、ちゃんとあなたにも会えたし」
「なんだか移動床を全部知ってるみてえな言い方だな。意図的にこのタイミングでこの分岐点に来た、とでも言うのか？」
　移動床の完全解明はまず不可能ってことになってんだ。そりゃ、地図はあるから先に進むことはできる。でもこれは一部しか載ってねえ。全部の移動床がどうなってるか、なんてのは誰にも分からねえんだ。
　一つにはすでに『本流』が確定しちまってる、ってのもある。さっさと次へ、10階層目に進んじまえ、ってことになってるってこった。そりゃ誰も危険を冒したくはないさ。移動床を調べる最も効果的で唯一の方法は乗ってみるしかない。乗ってみてどこへ繋がってるか確認して地図を作っていく。…どんな危険があるか分からねえわな。もしかしたら生きて迷宮を出られねえかも知れねえ。
　実際、俺の手にあるこの地図だって先達のサポーターや学者たちのそういった努力…いや犠牲のもとに出来上がったもんだ。

　だが…明らかに意味なく移動してる床もある。前に跳ぶ訓練のできるループ床があるって言ったよな？　なぜそういったものがあるのか、そういうのがどれくらいあるのか、なんてのは全然分かってねえ。何か謎があるのかも知れねえがな。
「どうなんだ？」
「あら、いつもの怖い顔。あの子のことがそんなに心配？」