TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[3-19]

「当たり前だろ。依頼人放り出すサポーターがどこにいる」
　いかん。こいつのペースに飲み込まれねえようにしねえと…。
「いいから質問に答えろ。お前は移動床のことを、この地図以上に知ってるのか？」
　手にしてる地図をつきつけてみる。

　ちょっと身を乗り出すように、しげしげと地図を眺めて…サポーターなら標準装備のはずなんだがな。移動床の地図は。でもまるで初めて見たような顔をしてやがる…？
「知ってる…って答えたら？」
「協会に報告しねえとな。毎年何人かは移動床で未帰還になってんだ。そういう事態が少しでも防げる」
　ダークゾーンと移動床は迷宮でも特にヤバい場所なんだ。それぞれの『本流』を外れて行方不明、いや未帰還になっちまう連中は毎年何人も出る。何度も何年も迷宮に潜ってる熟練のサポーターだって油断できねえ場所の一つなんだ。もちろんサポーターだけじゃねえ。迷宮を専門に研究してるいわゆる「迷宮学者」だってそうだ。長く迷宮に潜っている奴ほど気をつけるのが移動床とダークゾーンだ。
「あら。いいこと言うのね」
　お前な。
「サポーターっててっきり自分のことしか考えない人たちかと思ってたの。やっぱりあなたは違うみたいね」

「…何が言いたい？」
「やだ。ほめてるのよ？」
「ほめられても嬉しくねえな」
「そう？　おかしな人ね」
　…ふう。
「仲間のことを悪く言われて嬉しいバカなんてそうそういねえよ」

「そう…そうね、うん、それは、そうね」
　あごに手をあてて、考え込んじまった。
　…一体なんだってんだ。こいつは。全くペースが狂うと言うか何考えてるか分からんと言うか。
　悪気がないってやつかね。それにしては言動がいちいち引っかかるんだ。そもそも一人で迷宮にいる、ってところからしておかしいしな。持ってる装備はたしかに標準的なものだ。でも何かが足りてない。そんな気がする。
「それはもういい。けどな、お前が本当に移動床のことを知ってるなら…」
「そうだわ、まずあの子を探さないといけないわね？」
　まるでとんでもない名案を思いついたわ、みたいな言い方しやがる。ったく。

「お前さんなら分かるんだろ？」
「そうね…ちょっと地図いいかしら？」
　…やっぱり持ってねえのかよ。
　俺の地図をじっと覗き込んでやがる。
「…分かるのか？」
「うん…まあね…」
　視線はたしかに移動床に沿って動いてるようだが、さてね。

　いくら地図がある、って言っても移動床はモノによっちゃ相当に複雑に絡み合っている。こっちの移動床からあっちの移動床へ、と単純なものじゃねえことはこれまでも言ってきたよな？　途中で分岐点を挟むからさらに複雑さを増しちまう。一つの移動床から三つ四つは当たり前。そこから別の分岐点にでも着いちまえばさらに増えていく計算になるから…無限大、てのは言い過ぎかね。でもそんな感覚になっちまう。
　そんな移動床だが、本当の行く先は分岐点じゃねえ。10階層目もしくは8階層目への階段だ。それを俺らは『本流』と呼んでるわけだ。
　最終的にはどっちかに辿り着く。辿り着くはず、なんだが…そこは全部解明されてるってわけじゃねえからな。どこへ向かってるのか分からない移動床、なんて物騒なもんも存在しているってわけだ。
「ここから乗ったのね…」
「そうだ。この移動床からこっちへ乗り換えるはずだったんだがな。あのやろ、勝手にこの移動床に跳び乗りやがった」
「これ…？」
　あいつが乗った移動床をじっと見てやがる…。
「多分あのヘビモドキだと思うんだがな」
「ヘビモド…って火吹き竜のことなの？　もしかして？」
　そう言えば依頼人だったな、あいつの。
「そうだ。えっとな…5階層目のな…この部屋だ」
　5階層目の地図の、その地点を指す。
「………」
「あいつがたまたま落ちてな。そこで見つかった。タマゴからかえった、とか何とか言ってたか」
「……」
「正式な報告書は地上に戻ってからでいいか？　ここで依頼人に会うとは思わなかったしな。ま、略式だが報告はしとくぜ。あいつに会ったら現物も拝めるしな」