TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[3-24]

　ああ、そうだ。あれは…たしかアリサのやつが資料を見たい、ってんで協会の図書庫まで付き合った時だ。

　サポーター以外は立ち入り禁止なんだが、サポーターが同伴していれば一般人でも入って閲覧することができるってのは前にも言ったよな？　アリサは弾丸職人なんだがサポーターの資格までは持ってねえ（何人かいるにはいるけどな、サポーター兼弾丸職人てのは）。それで俺と行くことになったんだ。

『ペパの実の植生分布の資料って、あるかな』
『そこまでマニアックなのはねえんじゃねえか、さすがに』
　サポーター協会の図書庫だから迷宮関係の資料は豊富なんだがな。そういう細かいのまではねえんじゃねえの。
『えー、そおかなあ…そういうのがないとペパ弾だって作れないじゃない』
『じゃ、今まではどうやって作ってたんだよ？』
『今以上にいいのを作りたいのよ。だから詳しい資料を見てみたいの。…この辺？　それとも…』
『あんまあっちこっちヘタにいじるなよ。何かあって怒られるのは俺なんだからな」
『へーい、りょーかいですー』

　図書庫、というだけあって本の数はハンパじゃねえ。でもそれだけじゃねえのも図書庫なんだ。
　一階の入り口には管理人がいて（昔サポーターで今は協会の職員やってるじいさんだ）そこで用件を告げる。今回は俺がメダルを見せて図書庫に一般人を案内したい、と言ってアリサが名前を記入する。それだけだ。もしサポーターが一緒じゃない場合は誰かサポーターを紹介してくれることもある。まあ、事情次第だけどな。明らかに冷やかし、なんてのはその場で門前払いだ。
　ここは一階と二階がある。本当は地下もあるんだが…こっちはAランク以上でないと入れない。何でも迷宮伝承記に関する資料だとか何だとかが手付かずでぶち込んであるらしい。中には歴史的に貴重なもんもあるから、それなりに責任の持てる人間しか入れさせないんだと。さっさと整理しちまって公開したらいいんじゃねえの？　とは思うけどな。正に手が付けらないほど大量にあって、何が何だかどこに何があるかも分からんもんらしい。

　その時俺たちが入ったのは二階だ。こっちは迷宮調査史と迷宮伝承記がそれぞれ一そろいと、その他の資料が収められてある。

　こっちにも管理人がいて（こっちは職員のおばちゃんだ）メダルを見せて用件を告げると大体の場所を教えてくれる。
　…そうだ、こっちも「大体」なんだ。
　迷宮調査史と迷宮伝承記はきちっと本棚に収まってる。これを見るだけなら別におばちゃんに断る必要もねえ。でも他の資料となると話は別でな。この時も『植物関係は大体あっちのこの辺だねえ』と言われてそこまで行ったんだ。ペパの実、とかそういう細かいところまでは知らん、ということなんだと。
　ちょっとばかし探してみる。…『迷宮の植物』とか『コチュウゴケの生態』とかそういうのばっかだな、やっぱ。迷宮関係なら強いんだろうがペパの実となると、なあ…でも他にあてもなさそうだしな…。
『…これかな…？』
　分厚い本が並ぶがっしりした本棚の、一番下の段。その中の一冊を手に取る。そっと息を吹きかけると細かいホコリが舞う。
『これっぽい…かな？』
『じゃあ、あっちの机でゆっくり見てな』
『あんたはどうするの？』
『俺はペパの実とかどうでもいいから、その辺ぶらっと見てるわ。終わったら教えてくれ』
『ほーい。そーする。終わったら約束どおりごはんおごったげる』
『おう。あてにしねえで待ってるわ』
　特に目的があったわけじゃねえからな。ほんと、その辺をぶらっと…。

　ふと、目に止まったのは床に平積みされてた紙切れだ。いや、紙切れ…ってのはなんか軽いな。でも本みてえに表紙があるわけじゃねえ。書きつけとかそんなもんかね。
『迷宮の…迷宮における生物の時間的存在理由…？』
　論文っぽいな。ぺらぺらの三枚くらいの紙に書いてある。書いたのは…ジョン・オールドマン。
　その時の俺だってオールドマンの名前くらいは知ってたさ。ああ、あのオールドマンか…とは思ったがジョンなんてのは知らねえし、こんな論文とか書いたりするもんなのかね、と思ってな。だから別のオールドマンなんだな、と思ったんだ。
　内容は迷宮の生物があまりに速く変化したことを挙げていた。だからよそから持ち込まれたんじゃねえのか…ってな。

「それっきりだよ。まあ、あそこにはそんな資料がいくらでもあるからな…って、おい、どうした？」
「ジョン…ジョンなの…？」
「ああ。…間違いねえと思うが…」

「そう…良かった。無事だったのね…」
　おいおい、なんで泣くほど嬉しそうなんだ…？
　本当に、こいつ、何者なんだ…？