TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[3-25]

　ここ…どこなんだろうね。

　うん、もう、ゆかはいどーしてないんだ。僕はポコポコを抱えて…いや、なんかね、ポコポコってばしきりに僕のあたまの上に行きたがるもんだからね、いつものように頭のうえに乗せてあげたんだけど。
　なんかね…やっぱ違うよ、ここ。
　今までのあしもとってさ、いつもいどーしてたじゃん？　がたごとがたごと。で、当たり前なんだけどここはいどーしてない。てことはこれまで僕が潜ってきためいきゅーの床と同じってはずでしょ？　これまでずっと歩いてきてたからね。いくら僕だってこことよその違いくらい分かるよ。
　…どんな違いかって…？
　うーんとねえ、そうねえ、よそって言ってもさ、僕はエギアの路地とかそういうのしか知んないわけ。あそこはもちろん太陽の光があってさ、かわいてるんだよね。でもめいきゅーの床はそうでもない（ゆかがぬれてるってわけじゃないよ？　その下ってとこかな）。だから足の音も感じも全然違ってくるんだ。

　でもね…ここはそんな感じとは違うんだ。もちろんエギアのとも違うね。

　どんどん。

　ちょっと強くふんでみたよ。やっぱり違うね、こりゃ。めいきゅーやエギアみたいに石じゃないよ。うん。いや、見た目は石なんだよ、うん。でもこれってこの下は…土だよね？　柔らかいアレ。
　やっぱ違うんだよねえ…これ。
　音の響きってやつですか？　なんかそんなもんがね、ちがう。すすっと吸い込まれてくみたいな感じ。

　ふううむううう…。

　あ、ポコポコ？　中に入りたいの？　僕の頭の上からせいいっぱいせのびしてるよ。しょうがないなあ…じゃあ、行こうか？

　………

　中はね…ふつうに部屋だね、こりゃ。めいきゅーのと変わらないよ。
　…いや、違うか。
　真ん中に何かあるよ。またお立ち台みたいなのがあるね。僕がポコポコとはじめて会った、あそこみたい。あん時はふわほっちごけがあったんだけど…あれ、ここには何もない…って、そうでもないかな、何かがひょろひょろって生えてる。
　何だろね？　これ？
　三本くらいかな、ほっそい、ほっそい植物がね、お立ち台の上に生えてるんだ。ひょろひょろ、ひょろひょろ、ってね。やけに細いくきだなあ、とか思ったんだけど。よく見たらこれ、棒にくるくる巻き付いてるんだ。そういう植物なんだね。何て言ったっけ。こういうの。えーと…。

　お、…なんか実みたいのがなってる。一つだけ。あれ？　これって…？

　手に取ろうとしたんだけど。そのしゅんかん僕の頭の上から…ああ、ポコポコ…ダメだってばさあ…食べちゃ。

　いきなりポコポコが食べちゃったんだ、それ。だからくわしいことはもう分からない。他になってるわけじゃないしね。でもさ…どっかで見たような気がするんだよね…あの実。どこで見たんだっけなあ…思い出せないや。
　…それに…このくるくる巻いてる植物。なんかどっかで聞いたような見たような気もするんだけど…何だっけ？

　ポコポコはね、なんか満足したみたいに…僕のあたまのうえでおやすみし始めちまった。
　しかたないね。ちょっと辺りをみてみようか。…でもそんなに広いわけじゃないし、結局はめいきゅーの部屋なんだしさ、何があるってわけじゃないだろうし…。

　うわお。

　これは…あれだね、誰かが死んでるんだね。骨だけになってる。
　…他のどうぶつじゃないのか、って？
　それくらい僕にだって分かるよ。骨のね、まあるい感じとかそういうのは誰かだって、父さんが言ってた。道場ってね、僕はあんまし好きじゃないんだけどみんなが座って色々お話したり聞いたりすることもあるんだ。ざ、ざ、ざー…なんとかってやつ。その時に父さんが話してくれた。人間はあたまのなかにまあるい骨を持ってるんだ、って。それに…そう、こんな風に長く伸びた手と足があるのも人間なんだ、って。黒い服みたいなのを着てるしね。服を着るのは人間だけだよね？
　そうだ。お祈りしないといけないんだ。
　死んだ人ってきちんと「あっち」へ行かないといけないんだ。そのためにも生きてる誰かが拝んであげないといけない。目を閉じて、両手を合わせて。
「…どうぞ、やすらかにおねむりください…」
　で良かった、と思うんだけど。

　…今度は…紙切れ？　何て書いてあるんだろ？　読めないよ、こんなうねうねした字。上手な人が書くとこうなるって言うけどさ？