TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[3-27]

　なるほどね。そう来たか。火吹き竜が移動床を利用してる、ってか。
「人間の考えることと火吹き竜の考えることには違いがあるはずよ」
「そりゃそうだろうな」
「ある種の鳥は人間の作った施設を利用したりする。でもその目的は人間と同じじゃない」

　…ま、なんとなくだが分かってきたな。

　こいつが俺らに依頼してきたのは火吹き竜の動向って言ったらいいのかね…？　自分は移動床の調査で手いっぱいだから火吹き竜の方を任せる連中を探してたってとこか。なんとなくシャクだけどな…効率がどうこうってやつか。悪い方法じゃあねえよな。
　それでも引っかかるところがねえってわけじゃねえ。
「つまりあんたはあいつに生物調査とかって言っておいて、実は火吹き竜だけが目的だった、ってわけだ？」
「あら。人聞きの悪いこと言わないで？　生物調査の依頼は本気よ？」
　ひょい、と別の移動床に乗り移る。仕方ねえから俺も続く。…結構怖いぞ、これ。
「マナメちゃんには立派なルートセラーになって欲しいの。こういう仕事もこなして…そう、色んな経験を積んで知識を増やしていかないと」

「…それはどうかね。ルートセラーなんて妙な奴ばかりだ。あんなのがいてもおかしくはないさ。変にいじくるよりゃあのままの方がいいかも知れんぞ？」
「でも知識はないよりあった方がいいわ。そうじゃない？」
「そりゃそうだがな」
　ただなあ、ルートセラーはなあ…まあ、いいや。俺だけじゃねえし。色々あったんだよ、ほんと。ルートセラーってのは妙なのばっかなんだ。
「マナメちゃんのお父様もそう思ってらっしゃるわ。やるなら最後まで、ってね」
　それだ。気になってることの一つがそれだ。
「あんた、ずっと迷宮なんだろ？　それなのになんであいつの親父のこととか知ってんだ？」
　それだけじゃねえ。なんで詳しいんだ？
「だって…いつも迷宮にいるってわけじゃないわよ？　地上に出ることだってあるわ？」
「そりゃそうだろうが…それにしちゃ色々知りすぎてるな」

　俺らだって年がら年中迷宮に潜っているわけじゃねえ。そりゃあ、地上にも出る。警備隊が当番みたいに地上に戻っている…てな話は前にしたよな？
　でもそれはあくまで「時々」なんだ。店の店主なんか仕入れでどうしてもって時以外はほとんど迷宮だ。別に薄暗いところが根っから好きとかそういうわけじゃねえ。けど、何かで地上へ出ても、なぜかほとんどみんな迷宮に戻ってきちまう。
　俺？　俺は…まあ…そんなに嫌いってわけでもねな。うん。そんなもんだ。
　そういう連中には特有の「空気」がある。雰囲気って言ってもいいかも知れねえ。…いや「におい」とでも言うかね。ああ、こいつは迷宮にかなり潜ってやがるな、地上に出てもあんまり楽しくねえんだな、みたいなことが分かるもんなんだ。もちろん、その逆もある。一刻も早く地上に戻りたい依頼人、なんてのも俺らにゃすぐに分かる。

　目の前で天井を見上げたり床に触れたりしているこいつも…迷宮の方がいい、ってな手合いなんだろうよ。

　でも当たり前の話だが迷宮に潜っていればその分地上のことには疎くなるもんだ。これは仕方ないことなんだが…。
「知り合いがね、いるの。その人から色々教えてもらったわ」
「サポーターか？」
「そうね…サポーターの資格も持ってるけど、メッセンジャーの方が主かな」

　メッセンジャーってのは迷宮と地上を行き来して伝言のやり取りをしてくれる連中だ。なんでも起源は古くて迷宮ができた頃からある職業だ…とかそんな話もある。そのせいかどうかは知らんが警備隊でも手を出せない存在になってる。ある意味当たり前だあな。警備隊だってメッセンジャーの世話になってんだ。取り締まりとかやったら自分で自分の首を絞めることになる。
「メッセンジャーか…」
　たしかにな。迷宮と地上を行き来する関係上地上のことにも詳しい。同時に迷宮のことにも詳しくなるから、場所によっちゃ非常に重宝がられる。
「キャンベラって言うの。知らない？」
「いや。知らんな」
　メッセンジャーもサポーターと同じように迷宮では本名を名乗らない。だから『キャンベラ』てのもそういう呼び名なんだろうが…。
「なじみのメッセンジャーを使うことが多いからな、そんなもんだろう」

「でもすげえメッセンジャーだな。そこまで色々知ってるもんか？」
「彼はね、特別かもね。ほんと色々知ってるもの」
　ちら、と天井を見上げてまた別の移動床へ、ひょい、と。…いや、ほんと、これ怖いぞ…。
「黒が好きなの、彼。いっつも黒ずくめなのよ？」