TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[3-29]

「そうかい、黒いのが好き、か…」
　どっかで聞いたような話だな。まあ、いいか。

　お、分岐点だ。ちょっと大きいな3×3てなとこか。
「少し走行図を確認しておきてえんだが」
　…あいつは、アデレードはすでにどっかの移動床に足を下ろそうとしてやがった。おいおい。
「確認？」
「ああ。少し待ってくれ。さすがにここいらで確認しておかねえと、自分がどこにいるかも分かんねえ」

　ええと。さっきの分岐点からこっち、だったな。で…ここの移動床から…うーん？　こっちへ乗ったんだっけか？

「貸して。…第4号から3675番線に乗ったの、これ、ここ。次に第67号に着いて…それじゃないわ、こっち。それから5472番線に乗ってこっちの第22号に…あら、走行図に載ってないのね5472番線って。書き足しておいてあげる」
「いや、ちょっと待て」
「何？　書き込んだらいけないってわけじゃないでしょ？」
「そうじゃない。なんだその数字の羅列は？」
　移動床の地図でもある走行図だが、これにはそんな数字や番号は乗っていない。そりゃそうだ。俺らにとっちゃここは通り過ぎるだけの場所なんだからな。
「あ、知らないか…。これはホイットニーが大実験の後に移動床や分岐点に割り振っていった番号なの。学者の間じゃ知られてるはずよ？」
「…俺は何度か迷宮学者をここに案内してるが、そんな番号聞いたこともねえぞ…」
「あら。そうなの？　あんまり広まらなかったのね。数も多いしなあ…仕方ないかな…。じゃ、どうやって区別してるの？　普段は？」
「次の階層へ向かう通路ってのはほとんど確定してるんだ。学者連中だってそこまであちこちへ行こうとはしねえからな」

「そういうもんなの…ふうん…」
　自分たちと自分の師匠が必死になって作ってきたもんなんだろうな、さびしいってとこかね？
「何、そういうことならあんたが地上に戻って、正確な走行図を協会に突き付けてやったらいいんだ。俺らが知らない移動床も知ってるんだろ？」
「そりゃあ…ね」
「だったらなおのことだ。そうだ、ここで分かる限り番号を振っておくか…その方があんたもやりやすそうだしな」
　と、いうことで手持ちの走行図を渡して書き込んでもらったんだが…。

　なんだこりゃってなもんだ。
　相当な量の数字が書き込まれるだろうな、と予想はしていたさ。でもまさかこんな走行図そのものが見えなくなるんじゃねえか、ってなほどに書き込まれるとはな…。
「何これ。よく見たらずいぶんとお粗末な図なのねえ…私の知ってる移動床、半分も載ってないじゃない。分岐点も不完全だし。…あ、1845番線はこっちじゃないの。第6号に繋がってるから、こっち。途中で1909番線に1847番線がバイパスになって繋がってるのにそれも載ってない。…よくこんなので潜ってられるわね？」
「俺に言われてもなあ…これでも今まで特に問題なかったんだぜ？」
「じゃ、これから問題が起きるかもね。…色つき天井もかなり不完全。緑だけじゃないの。どこかへ着いたのは他にもあるの」
　小さく『赤』と書いてからぐりぐりと移動床に沿って迷いなく線を走らせる…。
「あ」
「何だよ？」
「…つい調子に乗っちゃったけど…いいのかしら？」
「だから何だよ？　何のことだよ？」
　まるでいたずらを見つかった子供みてえだ。
「ここはあまり詳しく書き込まない方が良かったかしら…？」
「何でだよ？」
「これ、多分火吹き竜関係の移動床なんだけど…確率が関係してるっぽいのよ？」

「どういう意味だ？」
　移動床ってのは進んで行ったらそれっきりだろ？
「ホイットニーも結局解明できなかった移動床の謎の一つなの。何分の一かの確率で移動床が変化して、見知らぬ場所や部屋に着いてしまう。その仕組みや正確な行く先も全部が謎なの」
「…つまり乗ったら最後、どこへ行くか分からねえ…ってか？」
「いくつか結末は分かってるわ。でも全部は分からない。…だからかなり危険よ？」
「だったら『キケン』て書いておいてくれ。協会へ提出した時に分かるようにな」
　普通のサポーターならそんな危険は回避するからな、よほどのやつでもねえと…。

「ちょっと待て、あんたさっきなんて言った？」
「え？　確率で変化するってとこ？」
「いや、その前だ。…これは赤い色つき天井なんだな、これと何が関係しているって？」
　少し、首を傾げて…
「ああ、これはね、火吹き竜と関係してるって話なの。もちろん確証はないけどね」