TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[3-32]

『驚いたよ、色々な意味でな』
『はい。まさか…ここまでとは』

　ふたり？　ダメだ、振り向いちゃいけない。

　そっと、そっと頭に手をやってみる。…だいじょぶ。ポコポコはここにいる。

『失礼した。君は、君の名前はマナメ・カギョリで合っているのかね？　あのカギョリ准将の娘さんだと聞いたが』
『間違いないと思われます。あの身長に、そしてあの身体能力。迷宮闘法のみならず迷宮練法をも極めておられる准将の血筋かと』
『たしかにあの身のこなしはただものではないな』

　なに言ってるんだか、わかんない。
　いしきだけを後ろにしゅうちゅうするんだ。なんだかとってもイヤなもの…いや、コワイもの…いや、何だろ。
　そうだ、なんだかとっても黒いものが二つ後ろにあるんだ。
　走って…いや、それもやらない方がいい。

『聞こえているのだろう？』

　手…違う、足！

『さすが。ここまで使えるのか』

　何をやったのか、僕にも分からない。勝手に体が動いて…そうだ、右足で前に直に蹴ったんだ。そして蹴りながら左足で体を後ろへ…。
　なんで？　僕、なんで前に蹴ったのさ？

『前蹴りからの体（たい）の後方移動。相当な手錬れでもここまで滑らかにはできないな』

　僕、僕…何を蹴ったのさ？

　前に？　僕の前に…二つ、黒い、黒い…。

『本当に失礼した。我々は君を傷つけるつもりなどないのだよ。さあ、構えを解いてくれたまえ。それでは話もできない』

　…いつから構えてたの？　僕？

『両手を拳とする全閉の構え。それも無駄のない良い構えだ』

　今度は…後ろ！

『なんと。…そこからかかとを後ろへ蹴り上げるかね…？　そちらは重心が乗っていた右足ではないかね…？　素晴らしい。その反応速度、その瞬発力。そして…その発想。素晴らしい』

　まただ。蹴りは当たっているはずなのに、なんだこれ、なんだこの感触…？

『キャンベラよ。お前の楽しみはよく分かった。しかし今はそういう時ではあるまい…？』

　何？　何をしようってのさ…。

『失礼しました。あまりに見事な使い手に…つい取り乱してしまいました』
『まあよい。…カギョリ准将の娘よ、我が配下が失礼をした』

　ぼう…と目の前に黒いカタマリが。

『我の名はラドルフ。かつてはラドルフ・オールドマンと名乗っていたものだ』