TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[3-34]

　…らどるふ。

『我々は少なくとも今は君に危害を加えるつもりはない。さあ、構えを解いてくれたまえ』

　らどるふ。

『カギョリ准将の娘よ。我が主の言に従ってくれ。手荒なことはしたくないのだ』

　らどるふ…？

「誰…？」
　ポコポコは僕の頭の上。うん。…なんか…丸まってる？　ちいさくなってる？
『ラドルフ。ラドルフ・オールドマンと名乗っていたものだ』
「だから…誰さ」
　しらないよ、そんな人。
『迷宮の全てを統べる、とされるオールドマン家を知らないのかね？』
「うん。…誰？」
　と言うより…
「あんたら…何？　なんでそんなに黒いのさ？」

『黒い、か…それは愉快だ』
　ゆかいって…おかしいってこと？
『我が主。お気をたしかに』
　笑い声。笑い声…いやなんか違う。これは…どこから来る声？
　めいきゅうの床の、その下。どこかに割れ目があって、そこから…ひびいてくる。空気をゆすりながら。
『よいな…よい。その無垢なる瞳。育ちきらない頭と体。よいぞ…よい』
『…我が主…』
「だから、何なのさ？」

『先ほども言った通りだよ。我はラドルフ・オールドマンと名乗っていたもの』
『そして私はキャンベラという。主に仕えるもの』

　…なんか…違う。やっぱ…違う。

　顔が見えないんだ。迷宮が暗いからじゃない。僕にはどうしても黒いカタマリにしか見えないんだ。
　もう一度、そっと頭の上へ手をやってみる。
　ポコポコはここにいる。そして僕もここにいる。でも…目の前のアレはここにいる気がしないんだ。

『さて、話をしようじゃないか。カギョリ准将の娘』
「…父さんを知ってるの？」
『もちろん。迷宮に関係する人物なら我の知らぬ者はない。ホセ・アモルナス・カギョリ…マイノス王国第一傭兵派遣部隊において副部隊長の一人を務める。しかし五人いる副部隊長の中に准将の位を持つ者はいないため、実質部隊長と同等の発言力を持つ…』
『マイノス王国第一傭兵派遣部隊の部隊長は、伝統的に少将の位を持つ者が幕僚内での任務を兼ねて着任する。そのため月の半分は幕僚本部へ出向く必要がある。だから実務的にも副部隊長が第一傭兵派遣部隊・ドールマータの長と言ってもいい…』
『まだあるぞ。幼少の頃から迷宮闘法の修行に明け暮れ、後に迷宮での生き残り方や特殊な技術をまとめた迷宮練法を確立したのもカギョリ准将だ。それまでは漠然としてしか存在していなかった技術を体系化したのだ…』
『それにより迷宮内での作業効率が格段に飛躍した』

　せすじに、なにか、はしった。

　何を言ってるのか僕にはよく分からない。でもこれ…こいつら…なんでそんなことまで知ってるんだよ…？