TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[3-35]

「ダメ。もう一回」
「ふう…またかよ」
　今回は323番線に乗ったんだ。でも何事もなくあのだだっ広い第96号分岐点に戻ってきちまった。途中、いくつかの移動床と平行したり行き違ったりしていた（そのたんびにアデレードがあれが何番線、こっちは何番線、と言ってくれるが言われてもこっちは何がなんだか分かりゃしねえ）。でもどれかに乗り移るわけじゃねえらしい。
「しるしの小石がそのまま戻ってきたのよ？　石が乗り移れるわけないじゃない」
　大実験の時には乗り移れそうな場面で石だけ放ってみた、なんてこともあるそうだがそんなにたくさんあったわけじゃねえんだと。ここに関して言えば乗ったままで最終的に着く、とかそんなもんらしい。
　あーー…結構だるいもんだ…。それこそ石だけ放ってどっかで待ってた方がいいんじゃねえの？

「…あいつもこういうの乗ったのかね」
　あんな飽きっぽいやつが辛抱できるもんかね。
「多分違うと思う」
　行く先をじっと見つめている。小手をかざして。俺も、横へ並んでなんとなく先を見ているが…何がどう違ってくるのか分からねえ。
「いくつかのルートがある、とされてるの。確定されているのはここの他に一件だけ」
「じゃあ、そっちに行ったってか」
「多分ね」
「…どんなルートなんだ」
「聞きたい？」
　…なんだその哀れむような、喜んでるような目つきは。

「こほん。まずは873番線に乗って665番線へ乗り移るの。ああ、もちろん両方とも高速移動床ね。665番線に至っては超高速。途中で342番線に乗り移るんだけど、これは短い床がぐるぐる回っているように見える、変わった移動床ね。ここから即座に9988番線に乗り移るのだけど、乗りそこなうと最悪ね。もう一度873番線にまで戻らないといけないけど何よりその戻り方が…」
「…もういい」
「そお？」
「俺には無理ってこったな？　でもあいつならなんとかなるってことか」

「多分、ね。でもあの子がこのルートを知ってると思う？」
　また前を向く。変わり映えのしねえ景色だねえ、相変わらず。
「知るわけねえな。…てことはどうやって進んでるんだ？」
「火吹き竜。あれは行く先を知ってるはずなの」
「あのヘビモドキが、か…」
「赤い色つき天井は火吹き竜の道、とも言われてるわ」
「へえ…」

　…またダメか。あの第96号分岐点に戻ってきちまった。

「今度は7692番線に乗ってみましょ」
「ああ」
　こうやって何度も何度も乗るしかないのかね。全くめんどうな話だ。

　…もう何度乗ったか分からない、覚えてねえんだが…。
「ん？」
「…気づいた？」
「ああ、これは…」
　音が…変わった？
　これまでもあのがっちゃがっちゃてな音を聞いてきた。移動床のある階層なら当たり前の音だ。ただ、場所によって音の大きさに変化がある。会話なんかできねえくらいにうるせえところもあれば、ほとんど聞こえねえくらい小せえところもある。
　さっきから何度も何度も何度も乗っている323番線と7692番線は、まあ、普通ってとこかね。会話するには問題ねえが全く聞こえねえってわけでもねえ。
　そもそもなんでこんな音がするのか…まだ分かってないんだと。
　一説には何かの機械が動いている、とされている。こうやって床がひっきりなしに動いているんだ、何かの機械がある、と思うのも自然だわな。でもどうやって動いているのかまでは分からねえ。水の力を利用してるとかそういう話もあるにはあるが、全然分かってねえのが実状だあな。
「なんだか大きくなってねえか？」
「そうね…聞いたことない音ね」
　一瞬、何も聞こえねえくらいに音が大きくなった。思わず耳押さえちまうほどだ。

　それが過ぎると…今度は今までにねえくらい小さな音になっちまった。そして…
「着いたみたいね。ここが9989番線みたいね」
　…なんとまあ…殺風景な移動床だな。まるでどこかへ通じてる通路みてえだ…？