TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[3-38]

　あの黒いのはラドルフとキャンベラ何とかってのには間違いないらしい。ただ、生きている人間か、と言えばなあ…その辺が分からねえ。
　あいつらが言うにはこの迷宮は100階層目くらいまでは普通に行けるらしい（実際、協会の地図も正式には100階層目までだ）。
　それより深い…深階層とか言ってたが…そこへ行くには特殊なルートに入らないといけないらしい。が、そんなもん記録にも何にも残ってねえ。だから火吹き竜を使って深いところへ潜ろう、という考えがあったらしい。でもあの火吹き竜だぜえ？
　当たり前だが数も少ねえ上に人に馴れることなんかまずねえって生き物だ。…そこへヘビモドキを連れた俺らが…ってんで利用しよう、とそうなったらしい。

　ま、どこにでも似たような考え方するやつはいるってもんだがね。

『サポーター・モナークよ。おぬしをこの火吹き竜の守り人の、その付き添いに任じよう。これから最深奥部へ向けて進むのだ』
　とは言ってもねえ…。
『エルネスタにも同行を許可する、と御前のおおせだ。ありがたく思うが良い』
　なんだかねえ…。
「ちょっと待って。あなた…本当にあのキャンベラなんでしょう？」
『いかにも』
「なんで…」
『それも全て我があるじのため。我の行動は常に御前のためにある』
「だました、ってこと？」
『結果としてそうなってしまったことは謝罪しよう』
　まあ、謝る気なんか全然ないってのが本心だろうな。
「あなた…本当は…何者なの？」
『愚問だな。サポーターは迷宮内では本名を名乗らない』
　変なとこで律儀なのな。あの状態じゃ正規のサポーターってわけでもねえだろうに。

「もうやめとけ」
「だって…」
「言っても聞きゃしねえよ、そういうもんなんだろうよ」

　約束もあるしな、隊長さんと。
「とりあえず…こいつらと一緒に行け、ということはできんでもないが、最深奥部がどうたらってのは承服できねえな」
『ほお…？』
「こいつとの契約は10階層ごとに見直すってことになってんだ。ここはまだ9階層目だろう？　もう1階層潜ってから再確認しないといけねえ」
『しかしその様子だと再確認とやらは容易なようだ。すぐに11階層目を目指すのであろう？』
「…さて、ね」
「モナーク？　僕と潜るのいやなの…？」
　おっと、ちょっと黙ってろよ？
「…？」

「まあ、なんだ。一度交わした契約に外からあれこれいじられるのも気に入らん、ということだ」
『それはたしかにあるであろう。そなたは律儀な性格だと聞き及んでいる。ならばこちらも最大限に譲歩したい』
『オールドマン家からの援助も出そう、ということだ』
『報酬として金貨1万枚。地上に戻った時点でも迷宮内の時でも好きな時を選ぶがよい。手渡すとしよう…』
　金貨1万枚なんて重くて持ち歩けねーよ。ったく。
「そういうのはもういいんだ。…俺にはちょっと別の目的もあってな」
『目的…？』
「ああ。まさかここでこうなるとは思わなかったが、な。次の町は11の町だ。ちょっと時間はかかるが、まあ、仕方ねえな」
『何のことだ…？』
「あんた、ラドルフ・オールドマンで間違いねえんだよな？」
『いかにも』
　その真っ黒なカタマリでそんなこと言われてもなあ。

「オールドマン家で今、ちょいと騒動が起きてるのは知らないのか？」
『…騒動、とな』
　なんかちょいと動揺してきたか？　となりのキャンベラだか何だかの動きが怪しいねえ。
「これまでの迷宮に対する態度を改めようか、って動きがでてるんだ」
『なに…？』
「発案したのはティム・オールドマン。あんたの孫ってことでいいのかね？」