TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[3-41]

「こいつが言いたいのはそんなに迷宮にこだわんでもいいだろってこった。違うか？」
「んっとね、まあ、そんな感じ」
「たしかにね。…なんでそこまでして…ってあれね、オールドマン家の歴史と関係してるのね」
「れきし…？」

「オールドマン家って元々は貴族でも何でもなかったのよ。ただの番人みたいなものね」
　あら。数が減ってきたわね…動揺してる？
「それがいつの間にか権力者になって迷宮に対して絶対な力を持つようになっちゃったの。…それが数世代、ってとこかしら」
『………』
「だから、分からないでもないわ。でも…ちょっとやりすぎじゃないかってとこじゃないの？」
「んっとね、えっとね、そんな感じ」

『だから…だから全てを捨てろ、と言うのか』
　一つに戻っちゃったわね。キャンベラも…一つ？
「そんなこと言ってないわ。ただもうちょっといい方法があるんじゃない？　ってとこかな」
「そうだな。今みたいに無理に誰かを奥へ放り込もうってんなら…ちょっとどころか大分反発ありそうだしな。何より…」
『なんだ』
「こういうこと続けてるとティム坊ちゃまによくねえだろうよ。迷宮潜るたんびにオールドマン家の幽霊が出てきて奥へ行け、何をしろ、てな話になってるんだぜ？　家の名前にも傷が付くってなもんだろ？」

　たしかにね。このままだとこの…二人でいいのかしら？　この人たち延々最奥部目指させるわね。
『ではどうしろと言うのだ？』
　まあ、たしかにね。
「ふ・ふ・ふ。そういうことならいい方法があるよ」
　…マナメちゃん…？

「…依頼、ねえ…」
「うん。このもやもやが僕たちに依頼すればいいんだよね？　そういうことじゃない？」
「そりゃあ…そうだが。えっと…依頼申請書の余りか何かどっかにあったよな…」
「…迷宮内でも依頼受けるの？」
　あっきれた。そんなことまでするんだ。
「ああ。町のやつとかな。後で協会に提出すりゃあいい…んだが。お、あったあった」

　前に見たことあるわねー…この申請書。
「あんたらはそれでいいのかい？　俺らは11階層目まで一旦行って、そこでこいつとの依頼契約を更新する。同時にあんたらの依頼を受けるってことなら問題はねえんだが」
『…依頼、とな』
『我があるじ…』
『うむ…』
「もちろん依頼だからな、こっちからも条件付けさせてもらう。報酬は後で決めるとして…まずは最奥部へ行くのに期限を設けない」
『いつになるか分からん、ということか』
「当たり前だろ。これは一生モンの依頼だ。…それから…これから何回か地上へ戻らせてもらう」
『なんと。今すぐ潜るわけではないのか…』
「それも妥当ね。準備も必要だし」
「あ。じゃあ、ポコポコは…」
「私がこっちに残ってあげる。私が地上へ戻る時は…ちょっと待っててね」
「…あんたも来るつもりか？」
「なんかね…乗りかかったなんとかってやつね。それに面白そうだし」

『…ううむ…』
「いやならいいんだ。俺らは通常通りに潜っていくだけだ」
『我があるじ』
『うむ…しばし待て。こちらも話し合う』
　妙な光景ね。黒いもやもやが二つ、なんかぼそぼそ話しながら細くなったり広がったり。

　…まあ、ヘンなことが起きるのが迷宮の常なんだけどね。まさかこんなことまで、とはね…。

『分かった。依頼しよう』
「そっか。じゃあ、これにサインを…」
『うむ』
　黒いもやもやがペン握ってサイン、ねえ…。
「間違いないな。それじゃ報酬の話をしようか…」

　ということでなんだか話がとんとんと進んじゃったのよね。

　11階層目。さっきマナメちゃんとモナークが依頼契約を更新、したんだけど…。
「…なんであんたらまでいるわけ？」
『当然であろう。依頼主が依頼した案件を確認しないわけにもいくまい』
『重要な案件である。そのためには必要なことだ…』
　どんな依頼人よ。これでも依頼ってことになるのかしら？
「ねえ、あんたたちこれでも…」

「モナーク、そっち、そっち行った！　ええい、めんどうだから僕が吹っ飛ばす！　ポコポコ！　行くよ！」
「ポポポポポポっ！」
「バカやめろ！　頭は攻撃するな！　そいつの頭の毛は高く売れるんだ！　おい、聞いてんのか？」

　ああ、もう…バカって楽しいわね、ほんと。

「なんか言ったか？」
「いえ、別に…」
「じゃあ、お前も手伝え。…そっちへ行ったぞ！」
「任せといて。…ちょっと逃げないでよ！　でないとこっちからペパ弾かますわよ！」