TheRootSeller 外伝 5 「あの山で ‐はるかなる思い‐」[3-3]

「はは…」
「でもなあ、こんなことがあるとこの町に来ようって連中がいなくなっちまうかも知れないだろ？　それでも大丈夫なんじゃないかな」
「ははは…」
「あの医者たちとか町の人たちとか見てると、そんな風に思っちまう。大丈夫だろ、と」
「ははははは…」
「…あんたは…大丈夫かい？」

　…そうか、大丈夫なんだ…。

「ああ。少し、疲れちまった。休ませてもらって構わないか？」
「おう…いいぜ。俺はそろそろ行くけどな…」
　ごろりと横になる。草と土とほこりの匂いがする。…天を仰ぐ。
　ふふっと押し殺した笑みがこぼれてくる。
　…何をしてたんだ、僕は。
　軽く額を押さえても再びあふれだした笑いは止まらない。うつぶせになったり、下ろした背嚢にすがりつくような姿勢になったり。ごろりごろりと体を転がしながら…笑い声が唇を突き破って出てくる。それは止めようもない。
「……」
　さすがに若い行商人も心配を通り越して奇妙なものを見る目になってきている。
「…あんた…」
「いや、すまない。僕は…眠いから寝かせてもらうよ」
　軽く手を振って、そのまま腕を頭の下に敷いて目を閉じてしまう。そこには深い眠りが口を開けている。
　口元に穏やかな笑みが張り付けたまま、その暗いところへ滑り落ちていく…。
「おやすみ」

　ふと、懐に手を入れてみると…ナルシアにもらったはずの木の実がない。どこかに落としたのだろうか…それとも。

　………。

　レナートが目を覚ましたのはもう、昼を大分過ぎた頃だろうか。
　門そばの詰め所には他に誰もいない。二人の門番も交代したようだ。寝る前に見た顔ではない。
「起きたかい？」
　それでも片方が声をかけてきた。
「ああ」
　大きくのびをしてみる。身体が軽くなったような気がする。腕が、動く。それもなめらかに。足も軽い。
「商用ならいそがねえと。もう市場は閉まっちまったぜ？」
「いや、市場に用があるわけじゃないんだ」
「持ち込みの行商かい？」
　市場で商品を仕入れずに自分で持ち込んで売ることもある。
「そうでもないんだ…ちょっと別件でね」
　たしかに本来の目的は商用ではない。

「…ほう？」
「この人を知らないか？」
　背嚢にしっかりとしまってあった届け物。それと一緒にもらったメモを取り出して見せる。本を届ける先の住所と名前が書いてある。
「…ああ、この人なら門をくぐって右、かな。そこから大通りに入って…三本目、四本目…五本目かな、そこを右へ曲がってちょっと歩いたくらいだな」
　小さく頭をかく。あまり自信がないのかも知れない。
「たしか…右側だったかな、大きな家の人だと思う。そうだ、赤い屋根だったっけ」
「ありがとう」

　背嚢を担ぐ。のぼりを手にする。
「さ…行かなくちゃ」