TheRootSeller 外伝 5 「あの山で ‐はるかなる思い‐」[3-5]

「やあ」
　その中の一人が声をかけてくる。若い男だ。
「ルートセラーかい？　最近よく見るねえ…」

　見たところ生活雑器などを扱っている行商人のようだ。膝を立てて座っている前には茶碗や皿が並んでいる。
「うん。僕はルートセラーさ」
「まだスペースが空いてるよ。そこの小屋に管理人がいるから…」
「いや、今日はそういう用事じゃないんだ」
「へえ？　なんだか忙しそうだね」
　かちゃかちゃと音を立てながら商品の位置を直している。
「何にせよやることがあるのはいいことだね」

「ここは…」
　彼の他には数人の行商人が商品を並べている。
　ほとんどが生活用品。生鮮食品はさすがに扱えないが（専門の店は町の中にいくつもある）それでも乾燥食品などもあるにはある。そして薬草もある。
「こんなところでも売れるのかい？」
　すると。ぷっと吹き出してしまう。
「こんなところ、とはご挨拶だねえ」
「いや、そういう意味じゃなくて…あまり人通りもないみたいだから…」

「ここはラサルートでも有数の『場』なんだぜえ？」
　乾燥食品を扱っている男が笑いながら言う。
「一番いい、とは言えねえけどな。それでも初心者でもそこそこ売れるんだ。悪くねえだろ？」
「よそから来るのもいるんだよ？　まあ、ちょっと奥まっているからね、ほとんどが地元の知った顔ばっかになっちまうけど」
　薬草を扱っている…組合旗がないからルートセラーではない…女性がにやりと笑みを浮かべる。
「でも、じゃあ、なんで…」

「…疫病さ」
「あ」
　もうあらかた収まった、とは聞いている。
「もう大丈夫なんじゃないか、って…？」
「それでも完全ってわけじゃないさ。それにこういうことがあると、なかなか表に出てこなくなっちゃうからね、みんな」
「……」
「しばらくはこんなものだと思うよ。ぼちぼちやっていくさ。なあ？」
「そうだな。これから先ずっとこんなもんってわけじゃねえだろうしな。それまで我慢我慢…っと」

「ところで、君の用事ってのはなんなんだい？」
　そうだ。届け物をしないといけない。
「この家なんだけど…」
　紙切れを示してみる。ほう、どれどれと皆が集まってくる。
「こりゃあ…あんた、反対方向だぜ？」
「え？」
「門から来たんだろ？　北門かねえ」
「ええ…」
「それじゃあ、門のそばだよ。この家。赤い屋根の家さね」

　聞くところによると、門番には当たり外れがあるらしい。
「門番やってる奴によるんだ。まー、適当なこと言う奴もいるからなあ」
　外から来る行商人も多いラサルートだから道を尋ねられることも多い。が、道をよく知っている門番が応対してくれればいいが、そうでもない門番も結構いるのだとか。
「北門は多いんだよ、そういうの。中に入ってから誰かに聞いた方が良かったかもねえ」
　…そう言えばなんかあやふやだったな。

　それでも家の場所はこれで分かった。皆に「ありがとう」を告げて…元来た道を引き返すことになる。