TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[1-18]

「それで今日は何の用なのですか？　…お兄様に」
「えっとねー…」
　…ちょっとコレを見てもらいたくて…。
　と、手にしていた袋（背負子は受付に預けてある）からあの「手紙」を取り出そう、としたのだが。したのだが…
「ふん。何か人に頼みたいのならまず誠意を見せてもらわないとな」
　妹君がうんうんうなずく前で、ふふん、と。ちなみに体の向きは掲示板の方を向いたまま。視線の、むしろ…目の端だけこちらに向けてくる、と言ったところだろうか。もちろん唇の端に笑みを貼り付けておくのを忘れてはいけない。
　ドリスを気にしてるのかそうでもないのか、ちょっと分からない様子だが…少なくとも友好的ではない。まあ、当たり前ではある。

　…うわー…
「何そのヤクザみたいなの」
「タダで人は動かん、ということだよ」
「そりゃ分かんなくはないけど…」
　袋から取り出す手を止める。
「どうせやっかいごとなんだろう？」
「…まあ…ねえ…」
　…ダナーブ文字まで読めるとは思えないし。
　ジェドはあくまでもバイヤーであって学者ではない。そのコネやツテでもって何か資料が手に入らないか…という話なのである。それでもやっかいなことに違いはない。考古学者や博学士があれだけ解読に苦労していた言語なのである。
「うーん…たしかにやっかいっちゃあ…やっかいやねえ…」
「そうか。なら決まりだな。ちょっと付き合ってもらおうか」

「つ、つ、付き合うって…！」
　すっとんきょうな声を上げたのは妹君である。
「そんな話聞いてませんわ！」
　…いや、そんな話してないし。
「何ヘンな声上げてるんだ」
「ヘン、ヘン、ヘンって…」
「おかしな奴だな。昨日言ってたあの取り引きだ。あれにこいつも付き合ってもらう、ということだ」

「あ、あー…そういうことなのですね…あー、あの取り引き…」

　いきなり、またぎろりと激しくドリスを睨みつけてくる（もちろん顔は真っ赤）。
「わ、わたしからも頼みますね。いいですか？　お、お兄様に恥をかかせたら承知しませんからねっ！」
「はあ…」
　…うわー…めんどくせー…
　こういうのは深入りするとロクなことにならない、というのは経験上ドリスはよく知っている。思い込みの激しい人間というのはどこにでもいるものだが、だからと言って慣れるものでもない。一度関わってしまった以上逃げるわけにもいかないし、ここから別のツテを辿るのもまためんどい話である。
　…さっさと用件済ませろってことか…。

　なお、ここはノスルクバーグ薬協支部の掲示板前。大都市の薬協支部の掲示板群。いくらドリスのような商売でルートセラーやってる連中には人気のなさそうなジャンルの掲示板だ、と言っても結構な数の人が周囲にいる。…ほとんどが『幽霊』か、と言えばそうでもないだろう。
　何度か述べているように薬協や薬協支部というのはかなりアバウト？な組織である。ルートセラーでない人間が大手を振って入って来ても、掲示板を飽きるほど利用しても、誰にも怒られたりしない。ここにいるのも恐らくはほとんどがフツー？の美術業界関連の人間なのだろう、と思われる。
　そういった連中はいわゆる上流階級のお金持ちとも繋がっていることが多い。だからこんな風なめんどくさい光景に出くわしても、さらり、とかわす術を心得ている。…平たく言えば無視するスキルを持っている、ということなのだが…？
　…なんか…やけにこっちを気にしゆうね…？

　正確にはドリスではなくジェドとリーゼに注意を払っているような。…もしかして同業者の間でも有名な兄妹なのかも知れない。とすると…
　…やっぱりさっさと済ませるか。
　この手のめんどくさいのとは関わらないのが一番なのである。やはり。