TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[1-19]

「で…どんな取り引きなの？」
「そんなに難しいものじゃない。オークションだ」
「ああ…オークション」
　通称『ノスクルバーグオークション』だろう、とドリスは思った。複数の団体や個人が色々なブツを持ち寄って開催されるオークションである。ノスクルバーグではあちこちで散発的しかし定期的に開かれている、とも聞いているからそろそろどこかでやっているのだろう。もちろん、その情報も掲示板に示してあるはずだ。
　小規模なオークションの集合体みたいな位置づけでもある。オークショニアが木槌持って大きな会場で…というのではなく。それぞれの小部屋にブツが並べてあって、横に箱と紙切れが置いてある。競り落としたいブツがあれば金額を記入した紙を箱に放り込んでしばらく待つ。他のブツでも見ていたらいい。誰かがその金額以上の額を書いた紙を入れたらそれより上の額を書いて再び放り込む…もし記入した者同士が箱の前でかち合うとケンカにでもなりそうだが、そういう時は無言で紙切れを放り込み合うべし、という暗黙のルールがあったりする。だからトラブルには発展しないのが普通でもある。
　…まあ、大抵の場合は誰とも競合せずに誰かが放り込んだ紙切れ一枚で落札、とかそんなもんらしい。規模が規模なので場合によってはどこかの会議所の一部屋でだけほんの数点だけ…とかそんな程度のものもあったりする。それでも時々掘り出し物があるから、侮れない。

「ぜひ競り落としたい逸品が出る。これがあるとないとでは大分違う」
「焼き物？」
「違う。絵画だ」
「…絵…」
「どうした。何かヘンなこと言ったか、俺」
「いやー…なんか合わないなあって」
「何を言うのです！」
　ジェドの腕をぎゅー、っと抱きしめる。
「お兄様には絵画を愛でる優れた感性がありますのよ？　あなたのようなガサツな方には分からないでしょうけど！」
　…別に感性は…まあ、必要かなあ…。
　とかそんなことも思ったのだが。とりあえず当たり障りのない、曖昧な表情を顔に貼り付かせておく。
　…やっぱめんどいなあ…。
　べー、とか舌を出して顔をしかめてる妹君を見ながら、そっと、ため息。

　実はドリスが『合わないなあ』と言ってしまったのにはワケがある。
　絵画、というのは実用性に乏しいのだ。焼き物などの器なら日用的に使用できる。あるいは道具的な…金属加工品とかそういったものも同様。ドリスは頭の中で対象物を『使える・使えない』で判断することが時々ある。その中でも絵画はとびきりの『使えない』部類に入ってしまう。…何せ壁にかけて眺めるだけ、これの何をどうしたら生活に役立てるのだろう、とかそんなもんである。
　ドリスもジェドから買うことがたまにあるが、それらは誰かからの依頼でなければ自分が使うもの、ということになる。そうなると当然実用的な…木の実を長期保存するための壺とかそういったものばかりになる。だからつい『合わないなあ』と口に出てしまった。ジェド＝壺、とかそんな印象があるのである。
「知ってるさ、そんなこと」
　ふ、と不敵？挑発？めいた笑みを浮かべて見せたりする…ジェド。
「だからお前に協力を頼んだんだ。畑違いのまるっきり門外漢のお前に、な」

「えげつないなあ…」
「俺とお前の仲だ、そんなもんだろ」
「…っ…く…！…！！！」
　痛い痛い、妹君の視線が突き刺さって痛い。

「…まあ…分かった。で？　まずはどこへ行くの？」
「ここだ」
　掲示板の一点を指す。重々しい文字で書かれてある…。
「…ホテル・カラダリ…？」
　…って、あの…？
「くっそ高級ホテルやん…！」
　王族や貴族が定宿とするような「超」がつく高級ホテルである。普通に泊まろう、とするとそれなりの身分と格式を要求される、とかそんな話もある。ドリスのようなルートセラーやジェドのようなバイヤー程度では部屋を借りるどころか敷居をまたぐことも許されなさそうな…？
「そこまで身構えることもない。オークション会場の集会室は誰でも入れる。それなりのドレスコードは必要だが、な」
「…ドレスコード」
　つい、自分の身なりを見回してしまう…。
「心配するな。合いそうな服くらい貸してやる。リーゼが適当なのを見つくろってくれるさ」