TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[1-20]

　…大丈夫かねえ…あたし。
　片隅にのぼりと背負子を置くスペースを示すと、リーゼはさっさと自分の作業を始めてしまう。ドリスに合う衣装探し、である。意外？とすんなりと自分たちの住む部屋に案内してくれたのだが…。

　ここは兄妹が借りている部屋とのこと。ドリスとリーゼが今いるのは兄妹の共用スペースとなっている食堂兼台所兼リビング兼倉庫、といった部屋である。二階建ての建物の一室である。
　ジェドは少しやっておくことがある、と二人を残してさっさとどこかへ行ってしまった。
　ノスルクバーグは家賃が高いことでも知られている。二人で住む、となると地方では小さな家が買えるくらいの家賃を定期的に払う必要があることもある。だからこの兄妹は三部屋だけのこの物件を借りている。そもそもは中の下くらいの下級貴族が単身で借りるような部屋、との触れ込みだった。貴族と言えば皆豪邸に住んでいるようなイメージがあるが、結構ピンキリあって、下のキリの方になると跡継ぎではない次男以降は家の外へ放り出されることもある。理由は口減らし。そこまで養える収入が家にはないのである。
　…とは言っても位はある人たちなので、それなりの場所に住もうとする。一般の単身者なら食堂兼台所兼リビング兼倉庫にさらに兼寝室の一部屋のみが当たり前。しかしそれでは兄妹で住むには狭すぎるので…この三部屋ある物件を借りることにしたのだ。こういうのが探せば出てくるのもここ、ノスクルバーグならではである。

　ノスクルバーグは古い街並みがそのまま残っている。シポルニアス王国そのものは新古期以降の成立となるが、ノスクルバーグは実はそれより古い。古期くらいには原型があったんじゃないか…とされている。実際、その頃と思われる遺構も時々町の中から見つかったりしている。
　もちろんその頃と今では大分趣きが違っている。石を組んで建物を作り上げる、という文化は現代にも継承されている。しかし当時は二階建ての建物などなかっただろう。何せ土台を組んだり芯材をかましたりすることもなく、ただ石を平積みしていって建物を作っていたのだから。場所によっては当時の建物がそのまま今の建物の土台になっていたりする。…建てる時に気付かなかったのかあえてそのまま利用したのか、その辺は分からないが。
　大きな災害がそれほどなく、住民が絶えることなく住み続けていたため古いモノが残りやすい、という言い方もできるだろう。…裏を返せばそれだけ変化が少ない、ということでもある。

「背が高いんですのね」
「えへ、まあ…」
「誉めてませんわよ、別に」
　衣装用と思われる木箱からてきぱきと衣服を取り出していく。壁の一面に積み上げてあるそれらは、まるでそれが壁でもあるかのようにきちっと積んである。それを下ろして、開けて、また上げる、を繰り返している。ドリスが思わず手伝ってしまったほどだったりする。
「…これくらいかしらん…？　いやいやこんなのでもいいか…な？」
　椅子の上にひょいひょいと乗せていく（椅子くらいしか乗せるものがない）。…なお、この二人家賃を折半つまりそれぞれが半分ずつ払っている。兄のジェドはバイヤーだが、妹のリーゼはお針子などで収入を得ている、とのこと。そういった協会がノスクルバーグにはあって、協会登録の作業場に毎日通って収入を得ているらしい。
『あれで腕はいいんだ。だから結構稼いでいるんだがな』
　とは兄の弁。バイヤーは収入の浮き沈みが激しいので一定の収入があるのはある意味うらやましいらしい。
「こんなものですかね。さ、合わせてみましょうか…」

　ドレスコード、と言っても最上級の礼装のようなきっちりかっちりした服しか許さん、というものではなく。それなりの位にある方々も来るのだから、一般の人もそれなりの格好をして来い、ということである。ついでに場も場なことであるし。
「あー…ちょっと合わないかなあ…」
「あたしには小さい？」
「それもあるんですけど…ちょっとなあ、違うかなあ…あ」
　ここにある木箱にはリーゼが趣味で集めている衣服と、そして素材となる布なども大量に入っている。そのためこの量になってしまうとのことで…いつかは自分で服を縫い上げて販売するのが彼女の夢らしい。
　そのリーゼが手にしているのは薄青く染められた一着の服。それなりにフォーマルな場に出ても問題はなさそうだが…。
「これは…ちょっと惜しいんだけどなあ…」
　…口に出てる、口に出てる。

「サイズが合いそうで、さらに、となると…これかなあ…なんか悔しいけど」
「あは、まあ、それなら別に、まあ…何でも…」
「何でもってわけにもいかないでしょう、お兄様のためなんですから。こういう機会でもないとわたしが力になんてなれないのですから」
「はは…」
　どう言葉をかけて良いのやら、ちょっと戸惑うドリス。…そりゃそうである。

「…って、それ…」
　思わず手に取ってしまう。
「…へー…キノニ木綿？　わあ…久しぶりに見たなあ、この感触がひたひたって柔らかくてちょっと独特なのよねえ…あら、きちんと現地織りじゃない」
「…分かりますの？」
「そりゃあ、ね。商売柄こういうのを頼まれることもあるし。キノニにも何度か行ったことあるし」