TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[1-23]

「ああ、なんだミランか」
「なんだ、とは挨拶だな」
　ドレスコードがあるから…というのとはあんまり関係なさそうな気もする。いつもこんな感じなのだろう、服装はそれほど華美なものではない。が、落ち着いた印象の上着と使いこなされた小物の統一感、そこからちょっとだけ外してみた…というそのバランスとアンバランスさがとても良い感触となって伝わってくる。
　…一般人？

　少なくともジェドのように一種の「殺気」をまとってはいない。それがなんでこんなところにいるのか…宿泊客にしてはどこか「仕事」を感じさせるたたずまいである。ノスクルバーグはその特性上観光客も多い。こういった「おかねもち」的な人も少なくはないのだが…。
「君もあのオークションが目当てなんだろう？」
　どうやら同業者らしい。言われて見ればバイヤー、という雰囲気もないではない。
「さすがに耳が早いな。あれだけ歴史のある町だからな。うぶ出し物もそれなりにあるんじゃないか、てな」
「それはどうかなあ？　歴史があるせいで逆に出尽くした観があるよ。そこまでは期待できないんじゃないかなあ…？」
「いや、そこを期待して掘り出すのがバイヤーってもんだろ？」
「そうは言うがね…なかなか難しいよ、ラサルートオークションは」

　…あ。
「ラサルート…」
「なんだ知ってるのか」
「そりゃあ…まあ、町の名前くらいはね…」
　セントレランドにある古い町の名前、ということのだが。ノスクルバーグからそれほど遠くもない。ただしそれはドリスのような旅を枕にしている人間の話であって、フツーの人たちならそんなに頻繁に移動できる距離ではない。
「ジェド。彼女は…？」
「助手だ」
「…そうじゃなくて、だな…」
「ルートセラーだよ。行商中心のな」
「ああ、なるほど」
　す、と手を差し出してくる。ごく自然な仕草で軽い握手。明らかに挨拶程度、といった軽さ。
「初めまして。僕はノスクルバーグでバイヤーを生業としております…ミラン・ヤッキアと申します」
「あ、これはご丁寧に。ルートセラーのドリス・アンフェルンです…」
　おずおずと握り返す。…なんか…やりにくそうだなー…とかそんなことを思いつつ。
「ドリスさん。ジェドとはどういった関係で？」
「そりゃあ…」

「敵だな」
「ともだち？」

　一瞬、顔を見合わせて…同時にため息をつく。
　…なんでそうなるかな…。
「なるほど。パートナーってことか。仕事上の」
　間違ってはいない。間違っていないのだけれど。
「しかしめったに助手を付けない、一匹オオカミみたいな君が、失礼ながら中堅どころの行商ルートセラーを助手に連れてきた、か…」
　ふむ、とあごに手をあてて考え込む。
「何かアテがある、ということだろうね？」
　にやり、と笑みを浮かべる。…こういうとこはやはり職業柄が出てくるのだろう。

「別にないぞ」
「そうか？　君は見た目はぶっきらぼうだが実は思慮深くて神経質だ。何かないとこういう行動には出ないだろう？」
「そうかあ？」
「そうだな、いつも」
　…あーー…なるほど。

　商売敵かライバルか。同業者なのだからなおのことその辺は色々ありそうではある。