TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[1-26]

　あの重そうな、細かい細工の施されたドアが…きしむ音も何もなく…意外？にするするっと開いていく。
　もちろん実は見せかけでした、とかそういうものではない。ドアは二枚あるが、それぞれに大柄な男性が一人ずつついていて、どうやらそれなりの力を込めて開けよう、開けようとしているらしい。しかし遠目には表情一つ変えずにすんなりと開いていっているように見えなくもない。相当に丁寧に、そして方法を知っている人間が日々手入れを怠っていない、ということが分かる。単にちょうつがいに油差しときましたー、てなだけではそこまで滑らかには動かない。
　ドアが開ききると。奥からやはり大柄な男性が一人、姿を現す。
「えー、こほん。紳士淑女の皆様あ、お待たせいたしましたあー！　これから入場、となります…」
　まるで歌手か何かのように朗々と響く声で開場を知らせてくる。それを合図に皆の動きも慌ただしくなってくる。

「…今回はデイブだね」
　いつの間にか二人の背後から、ミラン。
「ああ」
「とすると展開が厄介そうだ…」
「…なおさらだな」
「ね、あの…」
　なんだか二人だけ納得しているようなので、ちょいちょいとジェドの袖を引く。
「あの人が…デイブ？さん？何なの？」

「オークショニアだ。つまりはオークションを取り仕切っているマスター的存在だな」
「デイブ・フォロギア氏はノスルクバーグでも有名なオークショニアなんですよ。こういった大きなオークションなら必ずと言っていいほど顔を見せる、のだけど…」
　…んん？
　そのフォロギア氏はにこやかにお金持ちっぽい男性と挨拶を交わしている。ややオーバーアクション気味にも見えるが、そこはそれ、満面の笑みが歓迎ムードをさらに高めているようにも見える。
「正直今回は来て欲しくなかったなあ…」

「同感だ。あいつのオークションは必ず荒れるんだ。いや、彼が悪いわけじゃない」
「大物ばかりが出てくるせいだろうねえ」
「それもある。とんでもない高値で落札されるか、それともボロクソな値になるか」
「一度贋作が出たこともあったねえ、あれは…参った」
「壇上でいきなりあいつが指摘したんだよな。それで取り引きがストップして…たしかに、あれは…参った」
「トラブルメーカー？」
「と言うよりそういう運命なんだろうよ。毎回毎回なぜか妙な展開になる。だから今回もちと…厄介なことになるかも知れん。まあ、何もないように祈るしかないな」

　開場、ということで三人も中に入ることになる。
　受付と言うより入り口をガードするように先ほどの巨漢二人（もちろんデイブ氏ではない）が一人一人に許可証の提示を求めてくる。もちろんドリスはそんなもの持っていないのだが…
「この人は助手だ」
　とジェドが説明するとすんなり入場が許可された。あっけないほどに。

「あんなカンタンな説明でいいの？」
「あ？　別に問題はない。入場許可証はその人物にしか発行されないのが常だ。…見てみろ、大抵何人かのグループになってるだろ？　そういうのはみんな『助手』ということで入場させてるんだ。そうでもしないと一人だけでこんな大物オークションなんかやってられるか」
　金持ち風の男性が若い女性を侍らせて…と見えないこともなかったが、いざ入場してみるとちょっと雰囲気が違ってきてる連中がいるのもよく分かる。着こなしも完璧な、外見も豪勢な美女が実はそっち関連の専門家なんじゃないか…とかそんな状態に見えたりしてくる。何せ一緒にいる金持ち風の男性、そっちが本当はシロウトだったのか…とかそんな風にも見えるのだ。
「ああいうのはプロを雇っていいのを落とさせるつもりなんだろ」
　さらっとジェドは言う。つまり扱い上は男性の方が助手、ということらしい。
「やり方は色々あるんだ。それぞれに合った方法でやっていくのが一番だろ？」
「そりゃあ…まあ、たしかに」

　会場内には照明が用意され、壇上では係員らしき数名が準備を進めている。
　本来は観劇用の施設かも知れない。壇上に向かって座席が列をなして迫るような形態。何せ二階席まであるのだ。今回は封鎖されているが。そしてそれとは別に壁際にもかなり広めのスペースを取ってある。移動用と見えないこともないけれど、立見席ということなのかも知れない。
　入場の時に配れらたのは番号札を張り付けた木の棒。これを掲げて入札金額を言い…その値が最も高くなったタイミングで落札、ということになる。
「47かあ…」
　番号札の番号である。
「僕は52だね」
「なんでお前までここにいる？」
　当然のように二人と一緒にいる…ミラン。入場の時にはいなかったのだが、なぜか戻ってきたらしい。