TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[1-28]

　想定していたのとは少し違っているかも知れない。…そのオークションの始まりは静かであった。

　一番手、まず最初は壺が出てきた。小品と思われるほどのもので、ドリスでも楽に両手で隠せてしまうほど。背の高い彼女でもそうなのだから、リーゼほどの女性でもそんなほどの大きさなのだろう、と思われる。染め付けなどは一切していないが、花？のような凹凸が施してあってなかなかに姿勢が良い。
　このオークションはちょっと特別なところがある。通常はカタログのような目録が事前に配られて、そこへ載っている品を先に文字通り「品定め」しておいてから競りに参加する。しかしここではブラインドオークションと言うかびっくり箱オークションとでも言うか…何が出てくるか、参加者には一切知らされていない。そのため、出てきた直後に「品定めタイム」があって、希望者は舞台の上で出品されたブツを鑑定できる。もちろん、希望者のみである。
　一番手、ということでドリスも列に並んでみた。数人を一区切りとして舞台の上に上げるようになっている。…なお、ジェドとミランは興味ない、とこっちには来ていない。ドリスが席を離れると二人ぼそぼそと話し始めたが、それもすぐに終わってしまったようだ。
　…さて。
　舞台に上がった、と言っても基本的にブツに触れることは許されていない。テーブルの傍らにはデイブ氏と二人の大男が白い手袋をはめて警備員よろしく立っている。頼むと彼らがひっくり返したりしてくれる。何人かが熱心に壺の底の裏側なんかを覗き込んでいる。
　…うーーーむ…？
　製作者のマークが刻んであるのだそうな。それがあるとないとでは大違いらしい、のだが…。

　…あたしなら別にいらないかなあ…。
　ドリスの観点は一つである。使えるか・使えないか。その見方からすると…薬瓶の代用にはできそうもないし、保管するならガラス製の方が中が見えていい。遮光性を求めるにしてもこういう口の狭まったタイプは使い勝手が良くない。やはり観賞用か花瓶か、そんな用途だろう。
　早々に切り上げて席に戻る。
「どうだった？」
　あまり興味ない、といった様子のジェド。
「別に…あんなもんじゃない？　ああいう壺なら」
「トビニス焼のサマニ好みの壺だな」
「え。ここからでも分かんの？」
　ここまで離れるとちらっとしか見えない。どれくらいの大きさか、色はどんな感じか、とかそれくらいしかここからでは見えなかったはずである。
「当然だ。プロだぞ、こっちは」
　面白くもない、何言ってやがる、といった表情。
「もう少し大きければ考えないでもないが…あれくらいなら他でも手に入る。わざわざここで落とす必要もない」
「そこら辺は僕も同感だね。意外と買い手がついたりするものだが…ちと望みが薄いかな」
「しかしああいうのがここで最初に出てきたってことは…」
「ふうむ？　たしかにね」
「なんのこと？」

「初手からあれだ。トビニスの小品だ。こういった大掛かりなオークションにしては大人しめってことだ。…普通ならガランの絵柄大皿とかマドウの極上染め付けとかそういった大物から出てくるはずだ。しかし今回はそうでもない」
「手堅く来たね」
「思っていたよりまともってことだな。こりゃあ…すんなりと行くかな？」
「さあ、どうだろうね」
　ふん、と鼻を鳴らすミラン。
「あのデイブがオークショニアなんだ。まともに行くとは到底思えないね」

　果たしてその言葉通りとなるのかどうか。…あの壺がオークションにかけられたのだが…。
「まあ、良くて金貨300枚ってとこだろうよ」
　というのがジェドの最初の見立て。デイブ氏も「さあて…最初の品です。金貨100枚からスタートしまっしょう！」とかそんなもんだったのだが…
「金貨1000枚！」
　第一声からコレである。もちろんその後も価格は上がり続け、最終的に金貨5860枚で落札、ということになった。

「うわー…」
　思い切りヒいた表情のドリス。あんな実用性に乏しそうな壺にそこまで金貨を投入する、という感覚が正直理解できない。
「マジか…」
「マジだ。これがオークション…都市名を冠する大規模オークションだ。お前さんがいつも参加してるような小規模のやつとは全然違ってな、何がどうなるかさっぱり分からんもんなんだ。…どうだ？　驚いたか？」
　思い切りのドヤ顔である（自分も見立てを外しているのだが）。…もちろんドリスはそんな顔まで見ていない。
「いや。まあ…びっくりはしたけど、その…何て言うか」
「うむ」
「面白いねえ、すんごく。次は何かな？　どんなのが出てくるの？」