TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[1-32]

「いいだろう。ただしこっちの仕事は別だからな。後できっちり働いてもらうぞ」
「分かってる」
「じゃあ…まずは」
　ミランが親指で、くい、と舞台を指す。ついでに軽く首を傾ける。
「真贋の見極め、ですかね。僕は専門外ですけど」
「クルガ紋様なら見たことはあるが、な」
　ダナーブ文字としての実物を見たことがあるのは、この三人の中ではドリスだけ…ではある（ただし読めない）。
「しかしアレに真贋なんかあるのか？」
「ああ、たしかに。デザインとするならそこに真贋、というのもなんだか妙な話ではあるね。創作物なのだし」
「…うーん、ま、そういうことならそう言えないこともないかあ…」
「ここでうだうだ言ってても何も始まらん」
　勢いよく席を立つジェド。
「とにかく一度、見てみるしかないだろう」
　たしかに、と残る二人も席を立つ。デイブ氏のアナウンス（呼び込みとも言う）はすでに終わっている。舞台にはすでに何人かが向かってはいるのだ。…と言うことで三人も揃って舞台に向かうこととなる。何気に三人揃って、というのはこれが初でもある。

「人気なさそうだね」
　上がっている人数そのものはたしかに少ない。あの壺の時は何人かのグループに分けていたのだが、今回はそれがない。正に皆で取り囲むような状態になっている。
「狙い目ってことじゃない？　ライバル少ないってことだし」
「売れん、ということかも知れんぞ？」
　と、上がる直前は、まあ、なんとなくお気楽？な感じではあったのだが…。

　上がってみてから三人とも少しの、いや…かなりの違和感を覚えることになる。
　ドリスは無論のことはっきりと感じ取っている。さっき上がった壺の時とは明らかに場の雰囲気が違う。あの時はまだなんとなく皆にもどこか余裕があったような気がしたのだが、今回はそんなものは全然ないようにも感じる。
　…ふと、気づく。
　ドリスの前にはジェド、そして右側にはミランが立っている。しかし一人置いて左側には若い女性。斜め前に座っていた女性ペアの一人である。着慣れていない様子の方ではなく、こういった場にも慣れている様子の方。薄いレースの扇子で口元を覆う仕草にも不自然なところがない。が…その表情は氷のように冷たい。相方とにこやかに笑い合っていた先ほどの光景がウソのようである。
　…あれ？
　そして目の前にいるジェドの右隣りには、度の強そうな眼鏡をかけたやせた男性。ドリスの前に座っていた男性だ。先ほどまで資料のような紙束とにらめっこしていたはずだったのだが…ここでは一切そういったものは持ってきていない（別に持ち込んでも問題はない）。泰然、と腕を組み…目の前の細長い品をじっと見つめている。それはまるで…
　…なんだか…違うな…。
　人が変わったみたいな、そんな気にもなってくる。

「おい」
　くるりとジェドが振り向く。
「何？」
「…なんだこれ」
　耳打ちするように、小さな声でささやく。
「うーん…なんだろうね…」
「ちょっと異常ですね、これは」
　ミランも小声になっている。たしかにこの状況ではあまり大きな声は出せない。いや、出したくない。注目されでもしたら何されるか分かったものではない…そんな気にもなってくる。
「それほどの品、ということかそれとも何か他の事情でもあるんでしょうかね…？」

「いや。それもあるんだが…おい、ミラン。ちょっとこっちに来てみろ」
「なんだい？」
　バイヤー二人が並んで最前列。
「は？　なんで？　なんだこれ？」
「そうだろ？」
「…どうかしたの…？」

「紙だ。なんでこんなところにこんな紙がある…？」