TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[1-34]

「ここにいる連中でアレに書かれてあること、中身を第一に気にしているのは…お前さんくらいだろうよ」
「そうかなあ…」
　…紙、かあ…。
　書かれた素材にこだわる。そっちから攻められるとは全然思っていなかったドリスである。

「と、いうことでだ」
　ジェドがミョーな笑みを浮かべて見せる。
「な、なによ」
「ここからはバイヤー本職としての仕事、ということになるな。さっきの約束はナシ、ということだ。…正直、あれなら俺も欲しい。それなりに買い手がつく」
「えー？　あたしの助手やるんじゃなかったの？」
「悪いな。優先事項ができちまったんでな。本職ってことならお前さんにも手伝ってもらわないと。なあ…助手クン？」
　ひょうひょうと…いや、なんかどこか楽しそうに言い切る。

「いや、ジェド。それはちょっと違うと思うな」
　少し真面目な表情。…やや暗いようにも見えるのは気のせいだろうか。
「何だよ。お前だって欲しいだろ？　間違いなく真物のパウカイ獣紙、それに状態も良さそうじゃないか」
「そりゃあ…ね」
「ついでにクルガ紋様のオマケ付きだ。悪くない」
「ああ。でも約束し直したのは…ドリスさんの依頼の方だろ？　そっちが優先じゃないのかい？　君の方のは一時休止、ということになってるはずだ」
　ちら、とドリスを見て…今度はこちらもミョーな笑み。
「これは信用の問題だと思うがね…どうだろう？」
「いや、でもな…このチャンスを逃す手はないぜ？」
「たしかにチャンスはチャンスなんだがね」
　す、とジェドに近寄って…耳打ち。

「まだ大トリじゃないぞ、これは」
「…根拠は？」
「デイブがこんなところで本当の真打ちを出してくると思うか？　あのトラブルデイブだ。…もっと大きくて意外な隠し玉をまだまだ取って置いてあるはずだ。違うかい？」
「まあ…たしかに、な」
「…何なに？　どうかしたの？」

「と、いうことで」
「…はえ？」
　後ろから肩を、いきなり、がし、と掴まれてさすがに驚くドリス。なお、ドリスよりミランの方がかなり背が高いから彼女にとっては上から力がかかることになる。ちなみにジェドはドリスよりやや背が低い程度だから、こんな芸当？はできない。ドリスが膝を曲げないとうまくはいかない。
「僕はこっちに付くよ。約束は約束だからね」
「…はあ？」
　驚いたのはジェドもそうだったりする。てっきり、じゃあ二人でドリスの助手やるか、とそういう流れになるとか思っていたらしい。
「お前、さっきこそっと言ってきたのは一体何だったんだ？」
「さて？　何のことかな…？　…ドリスさん、身勝手で情けも何もないジェドの奴は放っておきましょう。大丈夫、僕がサポートしますから…ああ、そうだ、さっきの報酬は二人分でしたから…半額の金貨149枚でいいですよ。こいつの分も僕にくれる、と言うのならありがたく頂戴しますけど？」
「え？　やー…それは、その」
「冗談ですよ、冗談。金貨149枚で受けますよ。さ、行きましょう。こいつはこいつでうまくやるでしょうから」
　と、正にドリスごと押し続けつつ席を離れて行ってしまう。

　舞台と客席の間には結構な幅のスペースが空いている。これは演者と客を隔てる『壁』の意味もある。非現実たる演芸と現実そのものである客席を隔てる聖なる川の流れ…とかそんな大層なものでもなく。名の通った演者が出てくると警備がやりにくくなるからでもある。どこにでもそういった熱狂的な信者的ファン、というのは存在している。それはこのノスルクバーグでも相当数存在しており…こういった『高級有名ホテルの舞台』とかそういう場でも例外ではない。
　品のある場だから…というのはあまり関係ない。どこにでもそういった連中は存在している。
　そのためのクッション的な空間として舞台と客席の間には相応の『場』が空いている。もちろん、それは警備上の問題だけではない。演じる側にとっても有効に使える空間ができる、ということにもなる。

　そこへドリスとミラン。やや薄暗いここは実はこういった演芸以外の場でも活用されていたりする。先ほどまでの閑散、とした競りでもないもっと大人数が絡む競りだとここいらまでも人があふれることはそう珍しいことではなかったりする。場が沸き立ってくると人間、前へ前へと進みたくなるのは特定のファンだけではないのだ。もっとも…今は他に誰もいないのだけど。
「で…どうするの？」
「まずは、ドリスさんの武器を確認しましょうか？」
「…武器…ねえ…？」