TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[1-35]

「まあ…5000てとこかな」
　もちろん金貨で、である。
「ちょっと弱いですね」
「無理したら…7000」
「そこまで行けば何とかなるかも、ですが。無理はいけませんね」
「…でも無理しないと無理なんじゃないの？」
　ちら、と客席の方に視線。少し見えにくいが、不機嫌そうに親指の爪なんぞ噛んでいるジェドの姿。
「そうですね、たしかに。ああいう時のあいつは勝負強いですよ…恐らくこの会場でも最強でしょうね」
　…じゃあなんであんなこと言ったんだろ。
　とか思ってしまう。知り合いの友達の同業者じゃないのか？

　もちろん他の参加者にだって強者はいるだろう。何よりこの会場でこの規模のオークションなのである。…カンタンには勝たせてもらえそうにない。
「壁が高くなってる、ってことかな？」
「高い壁を乗り越えてこその勝利、ですよドリスさん」
　…なんだかなあ…。
「5000でも武器は武器、ですね。あのパウカイ獣紙なら十分にお釣りが来る額です。ただ…」
「オークションだからねえ…」
「そうですねえ…」
　流れによってはとんでもないことになることもある、ということをこの二人はもちろん、ジェドもよく知っているはずである。もしかしたら最安値（金貨3000枚いくかいかないか、とかそんなところ？）であっさり落札できる可能性はもちろんある。が、逆に軽く1万枚超え…とかそういう可能性だってある。
　始まってみなければ分からないのだ。…そしてそこには大抵何らかのドラマが隠れている…。

「ハナはいくらくらいかな？」
「そうですね…」
　ひょい、と舞台の上に視線を走らせるミラン。もうすでに「下見」は終了してしまって、関係者以外は皆降りて自分の席に戻っている。そろそろデイブ氏がオークショニアとしてのその手腕を発揮し始める頃合だろう。実際、関係者と何やら打ち合わせでもしているような様子である。何度かうなずいたり、逆に首を横に振ったりしている。その表情までは見えないが、かなり真剣なものではないだろうか。
　その第一声、つまりは一番最初の値段によって今後の流れも決まってくる。
「僕の勘では…3500とかそれくらいでしょうか」
　ジェドの読みも3000枚くらいだった。それくらいからスタートするのではないか、と。
「そうね。…あたしは相場分かんないからとりあえず待ってみるわ…」
　そしてこっそりと自席に戻る二人。ジェドは腕を組んだまま、じっと舞台を見据えて動かない。

「さて。みなさーま。そろそろ次の演目を始めるといたしましょう。…どうぞ！」
　一瞬舞台が暗転して、明りが戻ると…先ほどのパウカイ獣紙がもっともらしく登場していた。軽くざわめきの波が走って…かき消える。
「ラサルートのとある古老のお屋敷。そのお屋敷の屋根裏に人知れず眠っていたとされる逸品でございます。…パウカイ獣紙の上質紙。かのヴェーラ村の製紙職人の歴史、その中でも指折り筆頭の名うて、その名をかすかでも良く言わない者は村から追放されるほどの大名手。そう、あの大ペルシカム直系の手による最良の品ではないか、と発見当初はまことしやかに噂されておりました…」
「な！」
　異様な興奮が稲妻のように会場を突き抜け、そして分散して消えた。
「…？」
　この会場にいる人間のほとんどが一気に息を飲み、そしてほぼ同時期に息を吐いた、とかそういうところらしい。よく分かってないドリスのような連中はほとんど数人、といったところだったのだろう。
　…なんか…ヤバそうな…。

「ドリスさん…」
「は、はい」
「これは…ちょっとヤバそうですよ。まさかあの大ペルシカム直系確実のパウカイ獣紙とは…」
「あ…は、はい」
　とは言ってもその大ナントカを知らないドリスは何とも言いようがない。ないのだが…彼女もそこまでバカではない。会場の雰囲気とミラン、そしてジェドの尋常じゃない様子から、ある程度は察することができた。
「ハナも…ヤバい？」
　やや青い顔で、うなずくミラン。そしてデイブ氏の低いがよく響く、朗々たるその声が会場の隅にまで行き届く。

「では…ここは大ペルシカムに敬意を表しましょう。まずは…金貨26000枚からスタートといたしましょう！」