TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[1-36]

　一瞬の静寂。そして…ざわめきがあちこちからぽつぽつと発生して…会場全体へとどよめきとなって広がっていく。その波はやがて怒号のうねりとなって…
「静かに！　お静かに願います…」
　やや芝居がかった仕草で、口の前に指を一本当てるデイブ氏。そのまま「しーーー」と口にしながら腰を後ろへ引いた姿勢のまま、舞台上からぐるっと会場を見渡す。低音だがよく響くその「しーー」は会場の隅にまで行き渡る。
「お静かに。でないと大ペルシカムもびっくりですぞ…？」

「こういうとこがこいつの良いところと悪いところなんだがな」
　ぼりぼりと頭をかきながら、ジェド。
「人心掌握ってか？　議員でもやった方がいいんじゃないか？」
「彼のご尊父はノスルクルバーグの下院議員だったそうだよ。で…なんで君が我々と一緒にいるんだい？　しかもそんなに堂々と？」
　一応？ということでちょっと席を離していたし（そうは言ってもほぼ満員だからジェド・ミラン・ドリスと順がやや変わっただけだが）、ジェドは一度もこっちを見ようとはしていなかったのだが。
「いいんじゃないか、どこだって。同じ会場の中なんだから」
　今はなぜか二人の真ん中にふんぞり返るように座っている。もっとも、かなり無理に背伸びしているように見えないでもない。

「しかし大ペルシカム直系とはねえ…」
「ああ。こりゃあ…手ごわいねえ…」
　混乱の中でも声はいくつも上がってきている。現在の価格は…金貨3万枚を超えた。
「すごい人なの？」
　知らんもんは知らんのである。
「ええ。大ペルシカムその人はパウカイ獣紙中興の祖、とも言われてますね。もちろんもう故人なのですが…その直系でも影響力は絶大です。デイブが言っていたようにヴェーラ村では神のように崇められている、と言っても過言ではないですね」
「紙だけに、ってか」
　視線は前を向いたまま。あえて…つまんなそうな顔。
「……」
「………」
「……」
「…つっまんねー…」
「ドリスさん…ダメですよ、こういう時にツッコんだら負けですよ」
「ああ…放置が礼儀だったっけ。ゴメンねえ、気が付かなくって。いやー、すごいすごい。さっすがフォルティーン卿、センスあるわあ、いや立派立派、よっ、だーいとうりょう！　にくいねえ、このお！」
「…俺が悪かった…だから、もう、やめてくれ…」
　案外こういうとこがモロいのだろうか…。

「33250！」
　声が飛ぶ。初手は様子見か、と思われたがここへ来て皆、値を刻み始めている。しかしざわめきはまだまだ収まる様子を見せない。いくらデイブ氏が収めようとしても、完全には無理というものだろう。
「どうします？　手持ちでは…」
「分かってる」
　と、ジェドの方を見て…
「いくら持ってる？」
「おいおい。俺は俺であれを落とすつもり、なんだが…」
「知ってる。けど、ちょいイロ付けて返す。だから…お金貸して」
　ド直球である。
「それなら約束通り、ということになりますねえ…こいつも不義理をしなくて済む」
「お前は黙ってろ」
　はー、と大きく息を吐く。
「分かった分かった。そんな目で見るな。…もうちっと普通の値動きだったらこんなことしないんだがな…」
　懐に手を入れて、帳面にようなものを取り出す。手形、とも呼ばれるそれはバイヤー組合とノスクルバーグの金融関連企業などが交わしている「信用の約束」でもある。これに金額を記入して所定の機関へ持っていけば現金と換えることができる。ただし書いた当人の記名と同席が必要である。
　これだと現金を持ち歩かなくて済む。防犯のためか、と言うと…バイヤー連中はとんでもない額を扱うことがよくあるので、あんな重量物持ち歩くのは一苦労だからでもある。
　それへ『50000』と書きこむ。もちろん記名。
「これが俺の精一杯だ」
「おおー…すごいっちゃね…さすがと言うか何と言うか。うん、やっぱりやる時はやる男だとは思ってたけどねー…」
「ほう。やるもんだね。見直したよ」
「はは。まあ…見てろよ？」

　おもむろに挙手。そしてやってしまうのだった…
「50000！」