TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[1-38]

「どうする気だ…？」
　すっかりうつむいて、肩の力も抜け切って…正に劇場の床に沈み込みそうな、そんな勢いのジェド。…一体何がしたかったのやら…。
「そこだ。…考えみろよ、なあ？」
　その落ち込み切った肩へ、正に悪友のごとく腕を回していくミランなのである。

　悪友とは読んで字のごとく「悪い友」のことである。
　悪い、という意味にもいくつかある。法や道徳に反する悪もあれば、逆に法や道徳を守るべく規律を乱す悪もある。いずれにしてもあまり良い意味ではない。…当たり前と言えば当たり前ではある。何せ「悪」の反対は「良」でもあるのだから。
　しかしここでの「悪」はちと意味が違うようだ…。
「お前がしたかったのはドリスさんの手伝いだ、違うか？」
「ああ」
　力のない、息の抜けた返事。
「ドリスさんの本当の目的はなんだ？」
「そりゃあ…」
　舞台の上へと視線を持ち上げる（それすらもめんどくさそうに）。
「まあ…あれだ」

　オークションを制したのはあの二人のご婦人である。片方は明らかに大都市ノスクルバーグ在住のお金持ち、といった貴婦人。そのお連れ様は…こう言っちゃなんだが貴婦人といった様子ではなくドレスも着こなしていない。でも二人とも仲良し、といったところの…二人（血縁関係にあるのかそうでもないのか、その辺も分からない）。さっきの品定めタイムの時は貴婦人？の方が一人で真剣を通り越して青ざめた表情で見入っていたのだが、めでたく落札、ということだろうか。二人舞台に上がってきている。
　手を取り合って子供のように喜び合っているその様は…正に人生の慶事と呼んでも差し支えないほどである。
　一方で…
　近眼か老眼か、書類に目をこすりつけるように見ていたやせた眼鏡の男性は…がっくりと肩を落として席の中、である。この二組が最後まで競り合っていたのだった（なお、ジェドの50000枚をあっけなく引っくり返したのは全然別の人物である）。

「ああ。彼女が欲しいのはアレそのものじゃあ、ない。書かれてある内容だ」
「しかしクルガ紋様だぞ？　中身なんてないようなもんじゃないか…」
「美術品、というだけの意味合いならね。でも…」
　ちら、とさっきまで座っていた席の方に視線を戻す。今はドリスが一人、ぽつねん、と座っているだけ。
「恐らくは何かあるはずなんだ。そこを…なんとかしてみないか？」
「何とかってなんだ？」
「ちょっと心当たりがあるんだが…どうだ？　乗ってみるか？」

　そしてデイブ氏の朗々たる明朗で朗らかな声が響くのであった。
「みなーさま…しばしの休憩といたします。しばしの間…ご歓談下さいませ…！」
　こういった大規模のオークションならこういった休憩が入るのはよくあることである、何しろ一日中（文字通り朝から晩過ぎまで）続くことも珍しくないのだから。

　席に戻る二人。なんとなく気恥ずかしそうな…ジェド。視線を反らしたりしている。ぷう、と頬をふくらませてそんなジェドを軽く睨み上げるドリス。
　しかしそんな二人をまるで無視するかのように、ミランは前の席に座る落ち込んだ男性に目をやる。そそくさと荷物をまとめて…帰る支度をしているような？

「…ああ、またダメだったか…」
　荷物をまとめていく。革製のしっかりとしたカバン。それは明らかに旅行鞄で、かなりの古傷を抱えて彼に長年付き添ってきていることが分かる。取っ手に修理した跡がある。その跡は…シロウト仕事である。ただそこらのヒモで無造作に縛り上げているだけ。すぐにまた壊れて直す羽目になるのだろう。が、それを嫌がることもなく…彼はいくらでも修理して持ち歩くのだろう。
「済まない。ちょっと…いいだろうか？」
　声がかかったのはそんな時。二人の男が彼をはさむように覗き込んでいる。
　ちょい、と眼鏡をかけ直して不安を抱えたまま見上げる。
「…誰だ」
「俺はバイヤーのジェドだ。そしてこいつは…」
「失敬。僕はミラン。こいつと同業のバイヤーなんですが、ね」

「あなた…フォルテウさんじゃありませんか？　ヴェーラ村の…？」