TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[1-40]

「…？」
「……？」
　見つめ合う二つの目と、四つの目。
「あは。あの、えっと…」

「…先ほど、オークションに参加されていた…方ですよね？」
　正装がきちっと決まっている方（多分年上）の女性のやや低い声。こういった正式な場に慣れているのだろうか、優美な扇を取り出して…口元に当てる仕草も流れるように無駄がない。
「そうよね。…あの黒ずくめの彼氏さんと一緒にいた方よね？」
　こちら（恐らく年下）もやはり低い声。しかし扇などを取り出すつもりも何もなく、服装も明らかに着慣れておらず場慣れていない様子。その辺はドリスも一緒である。

「あ。はい…その…」
　…彼氏？
「ま。あたしはどっちかと言うとあの背の高い方がいいけどね」
「彼氏？」
「そうなんでしょ？　なんか仲良さそうだったじゃない」
「いや。別にそういうんじゃないけど…」
「またまた…何？　働く女性の余裕ってやつ？」
「えっと…」

　オホン、と重々しい咳払い。
「まずは…失礼を詫びるのが礼儀というものではありませんか？　覗き魔さん？」
「…ごめんなさい。失礼しました」

「こちらこそ失礼な物言いをお許しくださいませ」
　つ、と立ち上がって歩き始める。ドリスの前まで歩いてこようとしているだろう。…なお、こういう劇場型？の座席はヨコ一列に一定数が繋がって作られてある。これは座席同士の間隔を限りなくゼロに近づけて収容数を増やすのが目的である。ただし。この劇場には二階席があってこちらは個室があったり豪華な椅子席もあったりする。位が高い御人やお金持ちは結構な枚数の金貨でもって、こちらでゆっくりと遠眼鏡なんぞで楽しむのである。
　…が、コトがオークションとなるとそんな位置取りは無意味。皆、一階席に陣取りたがる。主催側もそれを十分に知っているから、二階席は今は空っぽになっている。そもそも席代も取っていないのだけども。

「あーあ、アデラってばやっぱ堅苦しいのよねえ…」
　こっちはそんな様子もなく。席の背もたれに頬を乗っけた肘ごと上半身をひねって預けて、はああ、とため息なんぞついている。相方？はヨコ一列の座席をようやく脱け出して、通路に出た頃合である。これからドリスのいる一列に入ろう、としているのが見える。
「なんか、突っかかって悪かったわね。あたし、テオドラ。よろしくね」
　かるーく握手なんぞ求めてくる。ついでに、にかっと笑顔。
「いや、こっちもごめんね。あたしはドリス。ドリス・アンフェルン」
　ちょい営業用入った笑顔で…返す。
「ルートセラーよ。行商だけどね」
「え…ルートセラーか…うーん…」
「？」
「ね。ちょっと話聞いて欲しいんだけど…いいかな？」

「…大変失礼いたしました」
　ドリスの前にやっと立てた…アデラという名の女性。こうして見ると結構背が高い。…いや、そうではなく…姿勢が良いのである。背筋は、ぴん、と伸びているがそこに無理はない。ごくごく自然な立ち居振る舞いを身に付けているのが分かる。
　思わず立ち上がって、こっちも背筋が伸びてしまうドリス。
「わたくし、アデラ・バーリと申します。これなるテオドラ・ファウナ・ムヒカ・ミラモンテスの従者にございます」
「あ、はい、あの…あたっしは、その…ドリス、ドリス・アンフェルンと申しまして…」
　…ミラモンテス？

「…あれ…あのミラモンテス家…？」
「そ。知ってるの？」
　背もたれに上半身預けたまま…なぜかドヤ顔。
「うん。えっと…その、言いにくいんだけど…」
　…ノスクルバーグのお荷物貴族、没落貴族筆頭だなんて、言えるわけないがやろ…。