TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[1-42]

　つまりは虚偽の手形…？
「空手形ってことは…」
「やあねえ。そんなことまでしないわよ、さすがに。まだ」
　ぱたぱた、と手を振ってあくまでもかるーく、かるーく否定しているが。
　…なんか…アヤシイ？
　何も言わず、澄ました表情のままのアデラが…どうも？　しかも手形に関してそれなりに知識がある辺り、年齢にややそぐわない気がしないでもない。恐らくリーゼとそう年の頃は変わらないだろうけど、あの「お兄様命」にそんな知識があるとは、ちょっと思えない。

　二人はすでに席についている。ドリスの横へ、二人並んで。ジェドとミランはまだ戻る様子がないのだ。
　座り方は対象的ではある。明らかに座り崩した？様相のテオドラと…足を座席の上にあげようとして怒られていた…背筋を、文字通り、ピン、と伸ばして扇子を口元を覆ったままのアデラ。ドリスに近い方はテオドラだけど、なんとなく…どっちの方に同調したらいいのか、自分はどの辺に足と手を置いたらいいのか、なんだかその辺までも少し迷ってしまう。しかし
　…ハズレかなあ…。
　ここで言う「ハズレ」とはあんまり素性のよろしくない依頼、あるいは依頼人のことである（もちろん口には出さない）。例えば非合法とか…あるいは思いっきり原価割れの依頼を押し付けてくるとか。依頼人が横柄すぎて態度悪い、とかそういうのも含まれたりする。
　要は「ヤッカイな依頼」ということなのだが…。
　…まあ、話だけは聞くって言っちゃったし。
　ここは…腹をくくる必要があるだろう。一応？こっちも分が悪いのだし。
　よし、と膝の上に置いてみていた手に、ぐっと力を込めてみたりする。

「それで…依頼、と言うのは…？」
「これ」
　さっきのパウカイ獣紙である。
「もう一回オークションにかけたらどれくらいになるかな？」
　…転売、か…。
　結構こういうのはあるものではある。どこかのオークションなり問屋なりで仕入れて別の売り先で高く売って、その差額で儲ける。それは決して悪いことではない。場合によっては結構な額になることもあるし、それ専門の業者だっている。ただ、この二人は明らかにシロウトである。シロウトが首を突っ込むとあまりよろしくないことになることも多い。それに気になることもある。
　…さっきの喜びようは何だったんだろ…？
　もし最初から転売が目的ならあんなに喜ぶものだろうか…？　いくら万年貧乏貴族だから、少しは金が入るかも、となったとしても。こっちの方の知識がないからドリスに相談してきた、とかそんなところじゃないのか…？

「テオ。その言い方はいけません。誤解を招いてしまいます」
「そっかな…？」
「ドリスさん。依頼と言うのは他でもありません。わたくし達が欲しているのは…適切なお誕生日プレゼントでございます」
「…ぷれぜんと」
　なんともまあ…このサツバツとした場には似つかわしくない言葉ではある。しかも…適切？

「えっと、誰への？」
「あたしあたし」
「…テオ？」
　低い声。
「ちぇー、ちょっとしたジョークじゃんか」
「この場ではふさわしくありません。ジョークはジョークで場をわきまえないといけません」

「渡すお相手はエーミール・シュライヒ・ホルトホーフェン卿でございます」
「…げ」
「ご存知でしたか」
「いや。まあ…こういう商売やってますしね。セントレランドでホルトホーフェンの血族って言ったら、まあ…あっちこっちで出てきますし。それもまあ…色々と」
「ええ。色々と」
「そう。色々と」
　うんうん、とうなずき合うドリスとアデラ。何やら通じ合う何か？がそこにはあるようである。