TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[1-44]

　…うわ、はっずかし。にあわねー、何言いゆうがやろ、あたし。

　自分でも正直なところ、なんでこんな自分に似合いそうなもない言葉がいきなり飛び出してきたのか…ちょっと分からない。ルートセラーと言えばやれ守銭奴だ、やれカネの亡者だ、と散々言われ続けてきていて…彼女自身も自覚ゼロではないのだし。…逆に、逆にそういうところがあったからこそのセリフなのかも知れないが、言った当人が大いに困惑していたりするのである。
　しかし目の前の（そんな思いなんぞに思い至ることもない）小娘は…下くちびるに人差し指を突き当てて…うーん、とか考えて…
「？　よく分かんない」
　と明るい笑顔で返してくるのだった。

「それにさ、エーミの方から言い出したんだから…しゃーないっちゃあ、しゃーないっしょ？」
　これだけでは事情の全部が分からない。そもそもなんで価値なんぞを知りたいのか…？
「…そうなんですか？」
「エーミール様、と言うよりお相手のホルトホーフェン家の方から、ですわね。…相手にふさわしいかどうか、これぞ、という品をもって縁を結ぶかどうか見定める、と」

　…なんかどっかにそんな昔話あったな…。
　アデラを、ちょいちょい、と手招き。
「嫁入り婿入りってことですか？」
　一応、こそっと。耳打ちするように口の横にてのひらを添えてみたりする。
「まあ、そういうところです。言ってみればお見合い合戦で…ああいう名家と繋がりを持ちたいところはゴマンとございますもの」
　こっちも一応、ということでテオドラに聞こえないように…しかしただのポーズでしかない…身を屈めててのひらでガード？
「うちにもそういった話が来た、ということでございます」
「ホルトホーフェンのお相手かあ…」
「お相手のエーミール様はホルトホーフェン第八分家の御三男でございます」
「…ビミョー」
「ンン」
　咳払いでごまかしても本音はそこかしこに見え隠れしている。

　少し説明しておくと…ホルトホーフェン家はシポルニアス王国でも有数の名家。首都ノスクルバーグだけではなく他の都市・地方の都市にも血脈が存在していたりする。そして多数の人材が王家・政界から財界、その他様々な業界と関連を持っている。その影響力は計り知れないのだが…全てが良い話ばかり、というわけではない。中にはあまり良くない話もあったりするが…それはまた別の話である。
「でも第八分家…ノスクルバーグ在住ぎりぎりか…」
　しきたりも相当な数、あるとされている。当たり前だがそんな個人的な事情をいちいち公表なんかしてないので、どれもこれも都市伝説みたいなものだが。
「そうですね。イチハチですし」
　ノスルクルバーグに住むことを許されているのは本家は当然だが、分家は第一分家から第八分家までだけ（もちろんそれが真実かどうかは誰も知らない）で、それを世間では「一八（イチハチ）」と呼ぶ。
「三男だと…大抵他家に婿入りかな…」
　影響力を示すためあちこちに身内を送り込んでいる、という事情もあるらしいのだが実質「口減らし」だ…とかそんな噂もある。お金持ちはお金持ちだが、それが行き渡っていない部分もある、ということでもある。なかなかに単純な世界ではないのである。
　そこで、ちら、と没落貴族の娘の方を見てみる…。

　箱から勝手にクルガ紋様付きのパウカイ獣紙を取り出して…正に夢見る乙女の表情、である。
「ん？　何？　もうナイショ話終わった？」
　片手でてのひら、片手の親指で…指す。
「まさかコレ、に…？」
「コレって言わないでください」
「コレ？　なに？　コレって？」

「まあ、そういうお話はありますけど、それに乗っかっただけ、ということにしておいてくださいな」
　軽く裾を払って、立ち上がるアデラ。
「エーミール様とテオドラ様が古くからのお知り合い、ということには違いないのですから。それが有利になるかどうは分かりませんけど」
「幼なじみみたいなもんだったんでしょ？　有利なんじゃないの？」
「それが…しばらく前からどうも避けられているようでして。ちょっと前から会ってもくださらなくなりまして。そこへこのお話、ですから」
　仕方ないのですわ、と肩をすくめて見せる。
「まあ…いくつか想像はつきますけれど…」