TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[1-48]

　今でも神のごとく崇められている大ペルシカムである。それがヴェーラ村の生え抜きではない、となれば大変な反逆？ということになる。
「…じゃ、あの人もう村には帰れないんじゃ…？」
「ああ」
　質問攻めにしてくるお気楽娘に何とか説明しよう、何かを伝えよう、としているのだろう…大きく手を振り回している。そういう姿勢がここからでも分かるのだが…
「親兄弟はもちろん、親類とももう二度と会うことはできないそうだ。もし何らかの形で名声を得ても、帰郷は叶わないだろう、と」

「…名声？」
「あの人の最終的な目的は『古技術の完全復活』だ。いわば逆襲かな、というように言ってたがな。古技術は大ペルシカムの手によって一度、葬り去られた。今度は古技術が大ペルシカムの技術を呑み込んで復活するんだ、とな。それが成功すればかなりの名声が手に入るだろ？」
「そこまであの人が言ってたの？」
「いんや」
　つるり、と顔を撫でる。
「俺がそう思っただけだ」
「なんだそりゃ」

　でもまあ、ない話でもないか…とドリスも思う。
　パウカイ獣紙は今でもこうやって人気があるのだ。それとはまた違う、古来の技術で復活した『真・パウカイ獣紙』が日の目を見ればたしかにそういった向きも出てくるだろう。新しモノ好き（この場合は一種の懐古趣味的意味合いがないわけでもないが）はどこの都市にでもいるものである。さらにそこへ未知の「古技術」というエッセンスが加われば箔がつく、というものである。
「でも…」
　…そういうのとは違うんじゃないのかな…。
「多分そういうもんじゃないと思う。うん」
「そういうもんかね」
「そんなもんじゃない？」

　うわー、とか、へーーー、とかテオドラのそんな声が響く（その直後にアデラの鋭い声が飛ぶのもまた必然）。

「ところでそっちの没落貴族はなんなんだ、ありゃ？　随分と騒々しいが」
「パウカイ獣紙マニアの御令嬢とその従者」
「へー…お若いのに珍しいこった」
「ついでにお見合い合戦に協力依頼されてますわ」
「お見合い合戦てあれか。一番良い贈り物持ってきたのと結婚するって、アレか」
「そう」
「どこのどんな物好きなんだ？　胴元は？」
「ホルトホーフェンのイチハチのハチの三男坊」
　ひゅうっと口笛。
「またビミョーなとこ突いてくるなあ。で…贈り物にパウカイ獣紙、それもクルガ紋様付きで、ってか」
「それも御令嬢のご趣味でございまーす」
「ほんと、いい趣味してやがんな」

「それで？」
「ん？」
「俺…いや、俺らに何を頼みたいんだ？」
「あら。話が早いね」
「そういうことでもなければ俺らに声かけたりしねえだろ、ったく」
　…そこまでじゃないけどなあ…。
　当人はそう思っていても相手方はそう思ってないだろう。
「最初はね、とりあえずジェドかミランに専門家紹介してもらって鑑定書か何か付けてもらおうかと思ってたんだけど」
　鑑定書とはその物品の筋の良さを証明するための但し書きみたいなものである。もちろん書いた人物に相応の信用がないとただの紙切れである。
「思った、んだが？」
「そっちの話聞いて、気が変わっちゃった」
「ほう？」

「ね。なんか丸く収まる方法ないかな？
「なんだよ丸くってな」
「みんなにとっての最適手段ってなとこかな。そういうの、ない？」
　うーん…と腕を組んで目を閉じる、ジェド。
「そりゃあ…そうだな…でも、かなり難しくないか？」