TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[1-49]

「それにお前、信じてるのか？」
「何を？」
「あの没落貴族を、だよ。本当に金貨51180枚を用意できてたのか？　手形とは言え虚偽ってのもあり得るぞ？」
　今現物を持っているということは手形をオークショニア側にすでに渡している、ということになる。ただし確認には時間がかかる上に手間がかかる。が、そこは没落とは言え貴族は貴族なのだ。未確認でも信用はあるから現物先渡し、ということは十分にあり得る。
「でもカラ手形じゃないって」
「口では何とでも言えるさ」
「…まあ…ね」
　気にならないと言えばウソにはなる。アデラの態度が何となく煮え切らなかったのも気になるところである。

「その辺は俺が調べてやる。銀行屋に知り合いがいるから、声をかけておく」
「…そんなことすぐにできるの？」
「こういう大きなオークション会場ってのは銀行屋にとってもいい商談の場になるんだ。だから探せばどこかにいるはずだ」
　実際、どう見ても参加者には見えない人間も多数いる。
「…わかった」
「なんだ、守銭奴のルートセラーらしくないな」
「そうかな？」
「…そんな顔するな。お、ジェフの奴がいたな。ちょっと待ってろ。聞いてきてやる」
　返事も待たずにさっさと行ってしまう、ジェド。

　…そうかなあ…。
　正直なところ、アレがアデラの芝居だったとは思えない。そういうことするように見えない、というのも正直なところなのだ。むしろ
　…信じたい、ってのが正直なとこなのかな…。
　ジェドが背中を預けていた壁に、そっ、と自分も背中を預けて…天井を見上げてみる。豪勢な天窓が何枚も何枚もはめ込まれてあって、柔らかい日差しがドリスを包み込むように降り注ぐ。採光性はもちろん、その美しさも豪華そのものである。しかしこういった超一流ホテルでないと似合わない作りでもある。一般のご家庭にこんなもんがあってもただただ邪魔になるだけだ。
　…まあ、相手は貴族だしねえ…。

　それでも、という思いはあるにはある。

　ジェドは眼鏡をかけた、やせ型の男と向き合っている。黒いカバンを抱えた神経質そうな男。彼が銀行屋のジェフだろうか…内容まではさすがに聞こえてこないが、当初は難しい表情で何度も顔を横に振っていた。それが仕方ないなあ、というような苦笑を浮かべて何やら話し込み始めた。
　そんなに長くはかからない。軽く手を上げて挨拶を交わすと、戻ってきた。
「おう。待たせたな」
「ううん、そうでもない」
「結果から言うとだな…オークショニアに渡した手形は本物だったそうだ」

「換金には記入した本人の同席が必要だが、ミラモンテスの代理人が委任状持って来たんだと。だから…金貨51180枚は本当に払った、ということになる」
「…うん」
「あらかじめ委任状と代理人を用意していたんだろう。そういった方式を理解してこの場に臨んでいた、ということになるが…どうした？」
「いや、なんでもない」
「そうか？　ならいいんだが…」

「でもこれで終わりってわけじゃないがな」
「何が？」
「あれだ」
　ちら、とテオドラの方を見る。…まだまだフォルテウ氏への質問攻勢は止まっていない。それどころか加速？しているようにも見える。アデラがなだめよう、なだめよう、としているのがここからでも分かる。

「金貨51180枚の出どころだ。…どう考えても無理っぽいだろ？」