TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[1-50]

「…借金？」
「一応は貴族だからな。貸してくれるところはあるんだが…」
「どうかなあ…？」
「…うむ…」

　なんで貴族の懐事情を二人が借金前提で話しているか、と言うと。…貴族と言っても本当にピンキリあるからである。
　それこそホルトホーフェンの本家、とかそういうレベルなら金貨50000枚なんて鼻クソみたいなものである。ご息女がご所望なら…と、ぽん、と金庫から出してくるだろう。いや、もっと大きな金額でもそれほど問題にならない。そもそもそんな大家のご息女がこんなオークション会場なんかに御自らおみ足を運んだりはしない。
　ジェドやミランのようなバイヤーを雇うか、専門家以上の知識や鑑識眼・審美眼を有する、そんな使用人たちを寄越してくるのである。
　が、それはほんの一握りの「極上級貴族」の話であって…お荷物貴族だの何だのと陰口叩かれるような家ではそういったことは見込めそうもない。…いや、大半の貴族はそんなものである。位だけはあるのだ。位だけは。しかしその位に見合うだけの高貴な生活を維持できるか、と言えば…その辺は大いに疑問である。

　一つには位の乱発がある。過去にむっちゃくちゃに「貴族の位」を与えすぎてしまったのだ。
　シポルニアス「王国」というくらいだから王族が存在している。そして王族は単独では存続できない。配下と言うべきか縁戚と言うべきか、王族の下に貴族があってそれで国を回している、という言い方もできる（さらにその下に色々と組織や団体や血族関連があるには言うまでもない）。
　セントレランドでも有数の規模であるこの国には長い歴史がある。その歴史の中では様々な事件や事故・そして混乱が起きてきた。それらの歴史の積み重ねも現在の王国の存続には寄与している。
　中でも最も大きな事件の一つ、というのが…王家の分裂危機になるだろうか。今から数百年ほど前とされている。正式な記録としては残っていないが、現在の首都であるノスルクバーグの住民なら大抵の人が知っている。…首都が二つ、できたのである。

　発端はよくある？王位継承権争い、とされている。この辺もはっきりとしていない。

　当時も首都はノスクルバーグにあった。こちらは王位継承権の高い方（恐らくは1位）が当然のように居座った。が、近隣のサルタムニアという都市に低い方が臨時政権を立ち上げてしまう。そこから一種の内乱状態へと国全体が突入していく。
　ノスクルバーグもその影響から逃れることはできなかった。現在でもその当時の爪痕とされる遺構が古い家の地下なんかを掘り返したりするとちょくちょく見つかったりする。相当な規模の混乱だったことには違いないのだろう。そのため、王位継承権の高い方の人物を一時疎開させることになる。…疎開先は古都ラサルート。シポルニアス王国より前に栄えた王朝から続く古い都市である…。

　ここからは正確な記録が本格的に散逸してしまっているため、はっきりとしたことは本当に分かっていない。
　断片的な伝承などを繋ぎ合わせていくと…邪魔もの？が消えたことで臨時政権側がサルタムニアからノスクルバーグに入ってしまう。そしてノスルクバーグとラサルート、二つの都市がそれぞれ首都を主張、さらに内乱が発展してしまった、ということくらいである。もちろん後に何らかの手段で和解なり何なりをして首都はノスクルバーグに定まった。そしてその時に世話になった連中（貴族ではない商人や平民が主）に何らかの恩賞？を出そう、ということになったが与えられるものがない。
　そこまでめちゃくちゃなほどに荒れてしまったらしいのである。…当時のシポルニアス王国は。

　そこで「位」だけを与えよう、後でなんかあげるから…と、一時しのぎで貴族の位を乱発した…というのが長いこと研究されてきた、今の定説である。…もしかしたら全然違う理由かも知れない、こうじゃないのか本当は…という異説も多数ある。しかし現状からすると大体そんなもんじゃないのか、というのが今をよく知るノスクルバーグ市民のほとんどが思うところである。
　何しろ「位」だけは高いのだが、他に何も持ってない、という貴族がたくさんいるのである。そんな連中を散々見て来ているのがノスクルバーグっ子なのである。ある意味では貴族とそれ以外の垣根が低い、という言い方もできる。二軒隣に住んでいるフツーのオッサンが貴族だったりするのだから。そういう人たちとフツーに近所づきあいしていたりするのである。

　逆に言えばその分信頼関係は強い。よその国のように貴族が威張りくさってて敬遠されまくりの陰でめちゃくちゃ言われたりしているようなところはないのだから。
「貴族専門の金貸しってがいてな」
「利率がちょっと違うんだっけ」
「ああ。契約内容にもよるが、一般市民よりちょい高めの場合が多いらしい。…その一方で変動金利にしておいて最初は高く、後は低くすることもあるそうだ」
「なんでそんなややこしいこと…」
　それを聞くと、ジェドは大きくのびをする。
「一応気を使ってるんだと。貴族相手だから取りっぱぐれがほとんどない。しかし返済が長期に渡ることもある。だから先に多めに頂いておいて後の分は少なめに…なんだと。お得意様だと最終的には無利子というのもあるそうだ」
「…お得意様、ねえ…」