TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[1-51]

　あんまり聞きたくない言い回しではある。…金貸しの、お得意様。ただし、貴族相手の金貸しはそれほど悪徳業者が絡んでいないことでも知られている。ボッタクリとかそういうトラブルが…というのはちょっと考えにくかったりする。
　しかもお荷物貴族ならホントウの意味でお得意様になっている可能性は高いから、それなりの信頼関係も構築されているだろう。
「そういうもんだ、ってのは知ってるだろ？」
「まあね」
　二人ともノスクルバーグを全然知らないわけではないのだ。ドリスだってそれこそノスクルバーグに「お得意様」が何人かいたりする。行商と言えども顧客は大事である。

「そこから金貨50000枚ほど借金した、ってこと…？」
「まだ分からんがな」
　そりゃそうである。
「…どうかな、うーん…」
「なんだ。まだ気になるのか」
「まあ…ね。…よし」
　ぽん、と両手で膝を打つ。
「確かめてみよう。…本人たちに、テオとアデラに」
「おいおい」
「ここでうだうだやってもしゃーないってこと。違う？　それに資金の出どころがはっきりすればあんたも安心できるでしょ？」
「安心かどうかは分からんが…ふむ、打つ手が出てくるかも知れんな」
「決まり。じゃ、行こ？」

　その当のお気楽娘は満面の笑みである。…ホールのソファの豪奢なふっかふかの背もたれに…どーんと背中から全身をゆったり預けてご満悦。
「うふー…えへへ、あはっは」
　なんか壊れてきてる気がしないでもない。お付きのアデラは…ああ、もう仕方ない…と天を仰いでこっちは半分以上放心状態。
「………」
「……あふう」
　その一方で精気を吸い取られたように深い味わいのあるテーブルに力なく突っ伏しているのは…フォルテウ氏である。元々がそれほど顔色が良い、というわけではないのだが…顔色が良い悪いとかそういう問題を通り越して土気色である。
「あーー…」
　何とかとりなしていたミランも呆れ顔通り越して表情が消えかけている。
「あれだけ質問攻めしてたからね。ったくとんだお嬢様ってやつですよ」

「あれ？　どったの？　ドリス？　デートは終わり？　うふふふふふ」
「誰がデートやねんな」
「うひはは、まあ、お盛んってこってすねえ！！　あはーはっははは！！！」
　ソファをばんばん叩きまくる。本格的にヤバそうである。いわゆる脳内麻薬出まくりな超ハッピー状態、といったところか。
「こりゃ話にならんな」
「…仕方ない。アデラ？」
「はい…？」
　こっちは逆に肩から背中から力が入らないほどに背もたれに身体預けている。
「ちょっと…いい？」

「…金貨の出どころ、ですか…」
　先ほどの場所から少し、離れた一組のソファである。お気楽娘と哀れなフォルテウ氏はミランに任せておくことになった。ただ…あれだけ騒いでいたのでさすがの当人も燃料切れのようである。うたた寝なんぞ始めやがった。フォルテウ氏は何度も何度も頭を振りながら、ようやく一息、といったところ。小さな声でミランと何やら話し込んでいる。
「それを聞いてどうなさいますの？」
　なお、この人もかなり疲労感がにじみ出た顔のままである。ホテルの人に頼んでお茶を出してもらったりしているくらいである。
「ちょっと気になっただけなんだけどね」
　ドリスは彼女の前に座っている。ジェドはドリスの後ろに静かに立つ。
「気に…なりますわよね？」
「まあな」
「別に隠すほどのことでもないのですけれど。…うちの事情はお二方ともご存知のようですし」
「まあ…ね」

「あのお金は正真正銘、お嬢様のお小遣いですわ。ご幼少の頃からもらった銅貨や銀貨からずっと貯蓄され…そして投資もなさいました。それがあの金貨51180枚の正体ですわ」