TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[2-37]

　その辺はクモキリヤも同様らしい。何度かルチアに尋ねようとして…ううむ、と考え込んでいたりする。なんとなく個人的っぽい事情に首を突っ込むのはどうか、とか思っているのだろう。それはドリスもなんとなく同感だったりする。

　重厚な扉がさらにもう一組。とは言ってもこちらは今までほどに巨大で重そうなものではない。案内してくれているガタイのいい守衛よりも大きいが見上げるほどでもない。材質からして金属中心ではなく（もちろん金属の装飾はあちこちに）木となっている。もっとも…相当に硬そうな素材に何重にも合板でもって補強してある。宿屋のドアみたいにカンタンに…というわけにはいきそうもない。
「ほう…材質はケルカか。しかもかなりの上物ではないか…さすがだな」
　軽く撫でてから、満足げにうなずく。
「あら。そういうの分かるの？」
「扱っておる商品が商品だからな。いきおい、有用な植物には詳しくなってしまうものよな…」
「ふーん…」
　そういうもんかな、とか思ってしまうが…もう一度、軽く撫でてから恐らくはファガール産だな、建材としては一級品だ、やはりさすがだな…とかルチアに語っている姿を見ていると。あー、あたしもあんな風に色々あっちこっちで語りゆうもんね、人のことは言えんもんやね…とかそんな風にも思ってしまう。

　扉を抜けると長い長い廊下が続いている。廊下の片面は窓になっているが、窓は極力小さく作ってある。それでもそれほど暗くは見えないのは板ガラスの使い方が上手いからだろうか。比較的高い位置から何枚かに区切って低い位置へと断続的に流れるように続いている。
　窓の反対側にはこちらはフツー？のドアが並んでいる…。
「個室？」
　こそっとルチアに聞いてみる。先頭からルチア・ドリス。クモキリヤの順で進んでいるのだが、その前後は二人の守衛が無言でがっちり挟んできているのだ。
「あー。いえ、あー…でもそんなもんでしょうかね。ドアの奥に一部屋、というわけではなくて同じ部屋に何枚かドアがついているんです。その方が出入りしやすいもんで」
「搬入しやすいってこと？」
「まあ、そんなもんですね」

　よく見るとドアにはそれぞれ小さな金属のプレートが貼り付けてあって「歴史書１０」とか「医書２３」とか記してある。さらにその下に何枚か細かい文字の刻んであるプレートもあるから、こっちは担当司書とか担当者とかなのだろう。
　…結構アヤシイのもあるけど…
「変態球技３」とか「三大奇書４」とか。後半の数字は明らかに部屋数を表しているのだろうけど…なんで「三大」に４つも部屋が必要なのか、ちょっと分からない。

　一行は二階へと進んでいく。途中で司書や職員らしい独特の雰囲気を持った人たちとすれ違う。何と言ったらいいのか…ただ本が好き、というわけではなく、本を触ることを職業として…書に対して敬意を払いながらも一種の距離感を保っている、とでも言ったらいいだろうか。あまり他では感じることのない空気がそこにはある。
「ここですね…」
　先頭を歩いていた守衛が、ぼそり。たしかに部屋のドアには「偽書」と記してあるプレート。ナンバリングがないところを見るとこの部屋だけ、ということなのだろうか…？　そしてその下には三枚ほどのプレートがあって、その中には「セドナ・マイス・リドル」の名もある。
　ノックしようとした守衛の手を、ルチアがそっと止める。
「？」
「その前にお二方の疑問を解いておこうかと。…ギショ、というところに引っかかっているようですけど、そんなに気にするもんでもありませんよ？」

「でも…」
「うむ…」
　…気にならないわけ、ないじゃない。ンな面白そーなもん。

「あのですね…世の中に本なんてのは無数にありますが、その中に確実に全部完璧に事実のみを記している、なんて本が一体どれだけあると思います？」
「うあ、そりゃあ…ほとんどないんじゃない？　多かれ少なかれどこかに作者の意図ってか何かしらそんなんが入り込むもんだし」
「ヒトは木石ではないからな、程度の差はあれそんなものだろう」
「最初っから娯楽目的で書かれたのなら内容全部ウソってことじゃない？」
「たしかにな。しかし算術などはどうだろう？　数字ならばウソは少なくなるぞ？」
「それってウソじゃなくて間違いってことじゃないの？」
　軽く咳払いするルチア。
「ンン。内容にもよりますが、大抵の本はそんなもんです。では『偽書』ってのは何か、と言うと…明らかにウソや間違いを記してあるモノと、それを前提に記されたモノ、ということになります」
　…？
　一瞬、頭の中でハテナマークが大量に舞った二人（もしくは守衛も含めて四人）だったのだが…。

　ばたん。

「それは私から説明しましょう。…姉さんの声は相変わらずよく通るのね？　聞こえなくてもいいところまで聞こえてきてしまうわ？」
　ドアから出てきた長身の女性。じろり、とルチアを見る目は冷静を通り越して冷ややか、ですらある。